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壊れる前に教えてくれた人

    ずっとしんどかった。

    言葉の意味を考える。
    行動の意味を考える。
    何が本当なのか考える。
    そしてまた考える。
    反芻。
    そのせいか、いつも頭の中が曇っていた。
    そして、
    私はそれを、解析だと思っていた。

    ある日、
    チワ(通称:パン柄。以降、そう呼ぶことにする。)へLINEを送った。
    「グループLINEを抜けたい。」
    本当は、何も言わずに退会しようと思っていた。
    けれど、
    急に抜けたら、
    みんなをざわつかせてしまう気がした。
    だから、
    「どう思う?」
    と聞いた。
    それが、私の限界だった。

    私のことも、
    あの人のことも知っている。
    なにより、
    私の考え方や価値観を理解してくれている人だと思った。
    だから聞いてみたかったのだ。
    私が感じていた違和感は、
    間違っていなかったのか。
    私は、
    自分の感じたことを信じていいのか。
    それがずっと不安だった。

    すぐに返事が来た。
    「話を聞くよ。ケーキを食べに行きましょう。」
    お店に着くと、
    まずは二人でケーキ選び。
    相談に来たはずなのに、
    ケーキ選びのほうが真剣だった。
    「これもおいしそう。」
    「いや、こっちかな。」
    ドリンクまでしっかり悩んで、
    ようやく注文が決まった。
    ケーキが運ばれてくると、
    「半分どうぞ。」
    自然とお互いのケーキを少しずつ分け合った。
    そんな何気ない時間が、
    張りつめていた気持ちを、
    少しだけ緩めてくれた。

    私は、
    全部は話さなかった。
    巻き込みたくなかったから。
    ただ、
    「グループLINEであの人の存在を見るだけでしんどい」
    「自尊心がボロボロになった」
    とだけ伝えた。
    そして聞いた。
    「私は、近づいてはいけなかった?」

    パン柄は、
    「そうです!」
    とは言わなかった。
    でも、
    「そんなことないですよ」
    とも言わなかった。
    ただ、
    「関わらなければ大丈夫です」
    と言った。
    私はもう一度聞いた。
    「私、深く関わっちゃいけない人だった?」
    パン柄は、
    「まあ、まあ……」
    と言った。
    パン柄はいつも、
    直接は言わない。
    でも、
    行動で示してくれる。
    だから私は、
    その沈黙ごと受け取った。

    不思議だった。
    はっきりした答えをもらったわけじゃない。
    なのに、
    すごくスッキリした。
    それは、
    私を否定しなかったからだ。
    私はずっと、
    「考えすぎかな」
    「重いかな」
    「求めすぎかな」
    と思っていた。
    でもパン柄は、
    そんなことは言わなかった。
    代わりに言った。
    「反芻しないように努めないとね」

    その瞬間、
    涙が出そうになった。
    ああ。
    私が感じていた違和感も、
    苦しさも、
    ちゃんと理由があったんだ。

    ただ、
    ひとりで抱え続けていたことが、
    しんどかったんだ。
    今ならわかる。
    パン柄は、
    あの人のことを教えてくれたわけじゃない。
    壊れそうになっていた私のことを、
    教えてくれたんだと思う。
    「もう十分考えたでしょ」
    「そろそろ自分を守りなよ」
    そんなふうに聞こえた。

    私は最近、
    このぼんやりした頭に悩んでいた。
    でも、
    温かい人たちが周りにいることに気づいた。
    そして、
    私はずっと、
    温かさが当たり前の場所にいたんだと思った。
    壊れそうになって、
    それでもなんとか保てた。
    だから今ならわかる。
    本当に必要だったのは、
    答えじゃなかった。
    安心だった。

    そして、
    壊れる前に教えてくれる人がいることは、
    幸せなことなのかもしれない。

    私はまだ、
    完全に元に戻ったわけではない。
    でも、
    反芻しない時間が少しずつ増えている。

    ちなみに、グループLINEを抜ける話になった時、
    パン柄に言われた。
    「何も言わずに退会するのは難しいね。」
    たしかに。それもそうだ。
    そこで私は提案した。
    「じゃあ、
    あなたが、私をグループから削除してくれたら解決するのではないかな。
    お願いします。」

    見事に断られた。
    さらに、

    「削除しても、
    誰かがまた招待すると思うよ。」

    ……たしかに。

    現実は、
    私の作戦より一枚上手だった。

     
     
    クスッと笑える日常の観察記から、どうしようもない切ない気持ちまで。 日常を少しだけ物語にしながら、振り幅大きめの日々を記録しています。 趣味はゴルフ、ダンス、サイクリング、筋トレ。

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