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そこの空間だけ止まっていた

    ガラスのショーケースが印象的な外観。
    商店街の一角に、その古着屋はあった。

    店内の奥まで見通せる、風通しの良い縦長の空間。
    古着のテイストに合わせた、ヴィンテージ感のある什器。
    壁面に一着だけ飾られた存在感のあるトップス。

    通り沿いから覗いただけでも、
    「少し入ってみたい」

    そう思わせる雰囲気が自然と作られていた。


    店内に足を踏み入れて最初に感じたのは、店主のお二人の距離感だった。
    いらっしゃいませ、と強く迎え入れる訳でもない。
    かと言って無関心でもない。

    まるで、

    「我が家へようこそ」

    と言われているような自然な空気感。
    そして店内に流れるBGM。
    音量も主張し過ぎず、
    空間や服、人を邪魔しない。

    今でも覚えている。
    あれは単に音楽を流していたのではなく、
    その空間の一部として存在していた。
    これはあくまで想像でしかない。

    けれど、
    店主のお二人が買い付けに訪れた海外の空気感や、
    景色を思い出しながら選んでいたのではないか。
    そんなことを考えてしまうほど、店内の空気と自然に馴染んでいた。

    以前の記事でも触れた、
    レザーシューズを探しに訪れた日のこと。
    店主から、
    「どんな服に合わせるものを探してるんですか?」
    と声を掛けられた。

    私はこう答えた。
    「今ラルフローレンで働いていて、RRLのスタイリングにも合わせられて、ポロスタイルにも合わせられるレザーシューズを探しているんです」

    すると店主は、
    「御殿場のラルフローレンですか?知り合いがいますよ」
    と続けた。

    その方の名前を聞くと、私も知っている先輩だった。
    服好きで、お店にもよく足を運んでいる常連のお客様だったらしい。

    その瞬間に感じた。
    このお店は服を販売するだけではなく、人と人を繋いでいるのだと。

    服という共通言語を通じて、
    自然とコミュニティが生まれていく。
    無理に距離を縮める訳ではない。
    ただ、気付けば壁がなくなっている。
    そんな接客だった。

    そこからは私の好みやスタイルに合わせて、
    何足かレザーシューズを提案していただいた。

    試着をして鏡の前に立つ。

    その間も、
    どこで買い付けたのか。
    なぜこのデザインなのか。
    この色味がどれだけ珍しいのか。

    一つひとつ丁寧に話してくれる。
    それは商品説明というより、
    その靴と出会った時の物語を聞いている感覚に近かった。

    購入を決めた後も、
    店内を見て回りながら様々な話を聞かせてもらった。

    仕入れの話。
    商品の背景。
    出会った時のエピソード。

    その場所でしか聞けない話ばかりだった。

    だからまた来たくなる。

    何かを買うためだけではない。
    服を見て、
    話をして、
    その空間に身を置く。

    それだけで満たされる時間があった。

    今振り返ると、
    あの店の魅力は商品だけではなかった。

    空間。
    音楽。
    人。
    会話。

    そのどれか一つが欠けても、あの体験にはならなかったと思う。

    商店街の中にあった小さな古着屋。
    でも扉を開けると、
    そこだけ少し時間の流れが違っていた。
    だから今でも鮮明に覚えている。
    私にとって、
    あの場所は服を買う場所ではなく、
    “時間を買いに行く場所”
    だったのかもしれない。


     
     
    「似合う」を育てる記録。 服だけじゃない。 身体も。 暮らしも。 人との関わり方も。 接客で学び、 日々の暮らしで気づき、 40歳から始めた「MOVE.50」とともに、 50歳の自分を育てています。

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