
社会人になって初めて就職したアパレルブランドは、A BATHING APEだった。
今の目新しい渋谷PARCOではなく
“PARCO PART 3”のガラス張りのカフェ「マ・シャトレーヌ」の向かいにあった、先鋭的な店舗。
そこが、自分にとって初めて経験する”服の仕事”の始まりだった。
今でもその店舗は存在している。
入口を抜けると、クリアパネルの床の下を回転寿司のようにシューズが流れ、ネオンライトを踏みながらメインフロアへ入っていく。
日常では味わえない、まさに異空間だった。
そんな場所で、新人の自分が最初に教わったのは、服の知識でも接客でもなかった。
“埃”だった。
OPEN前の清掃。
クリアケースのガラス磨き。
照明の確認。
プライスキューブの位置。
商品の向き。
全体のバランス。
ほんの少しの違和感も見逃さない。
当時のNIGO®さんが大切にしていたブランドの世界観を、新人もベテランも関係なく全員で守る。
それが、このブランドでは当たり前だった。
正直、最初は不満だった。
「どうして、そこまで細かく掃除をしなければいけないんだろう。」
服を売る仕事なのに。
そんなことばかり考えていた。
でも、それは掃除を教えていたわけではなかった。
“世界観を守る”ということを教えていたのだった。
どれだけ魅力的で高価な商品でも、
ガラスが曇っている。
照明が汚れている。
プライスキューブが曲がっている。
ケースの隅に埃が積もっている。
その瞬間、お客様が受け取るブランドの価値は少しだけ薄れてしまう。
それは、足を運んでくれたお客様に対して失礼である以前に、自分たちが大切にしてきたものを、自分たちの手で崩してしまうことだった。
今でも初めて入るお店では、商品より先に見てしまうものがある。
それが"埃"だった。
たった一つの埃は、その店が大切にしている誇りをどう伝えたいのかを静かに教えてくれる要素の大事な一つだと思う