
「時間を買いに行く場所」
バッグを買いに行く。
服を買いに行く。
コーヒーを飲みに行く。
そう思って出掛けているはずなのに、
気付くと毎回同じ店へ向かっている。
なぜなんだろう。
「時間を買う」という言葉は少し抽象的だが、私は「時間を買いに行く場所」とは、気分を上げに行く場所でもあると思う。
その場所には、
外観がある。
入口がある。
店内がある。
音楽が流れている。
匂いがある。
店員さんがいる。
商品が並んでいる。
一つひとつは特別ではない。
でも、その全部が重なったとき、
私たちは無意識に、
「また行こう」
という場所を心の中にリストアップしている。
販売員だった頃、
私は商品を提案することばかり考えていた。
でも今思えば、
お客様が買っていたのは商品だけじゃない。
その店の空気だった。
スタッフとの距離感だった。
居心地だった。
だから商品がなくても顔を出してくれる人がいた。
でも、この感覚はアパレルだけではない。
お気に入りの喫茶店。
気付けば足が向く定食屋。
何も買わないのに覗いてしまう古着屋。
一日の終わりに寄りたくなる居酒屋。
「今日はあそこへ行こう。」
そう思う理由は、
料理でも、
コーヒーでも、
洋服でもないことがある。
最近、私はそんな場所を見つけるたびに考える。
人は、どんな瞬間に
「また来よう」
と思うのだろう。
商品なのか。
料理なのか。
コーヒーなのか。
それとも、
その場所で過ごした、ほんの数十分だったのか。
もし後者だとしたら、
私たちは日々、
モノではなく、
「時間」
を買っているのかもしれない。
そして、その時間は、
気分を上げたり、
心を整えたり、
明日を少しだけ楽しみにしてくれる。
だから今日も、
誰かはお気に入りのカフェへ向かい、
誰かは行きつけの定食屋の暖簾をくぐり、
誰かは、いつもの洋服屋の扉を開ける。
そこに欲しかったのは、
商品ではなく、
「いつもの自分に戻れる時間」
だったのかもしれない。