
ステージに立つ役者
「いらっしゃいませ」
店舗に足を踏み入れた瞬間、最初に交わされる言葉。
コンビニでも、レストランでも、服屋でも、どこにでもある当たり前の一言。
でもその一言は、その店の“空気”を決める最初の合図でもある。
前回、雰囲気の話を書いたが、その空気をつくっている要素の一つが“人”だ。
これまで様々なブランドで店頭に立ち、お客様を出迎えてきた中で感じていることがある。
お客様は、“すべて”を見ている。
外観、入り口、最初にすれ違うスタッフの印象。服装、立ち振る舞い、視線。
商品だけではなく、陳列棚の埃やフィッティングルームの清潔感、会計時の所作に至るまで。
そのすべてが重なって、“この店はどういう場所か”が判断されている。
だからこそ、
最初の一瞬でマイナスの印象を与えてしまうと、その後にどれだけ言葉を尽くしても、期待値を上回るのは難しくなる。
この考えに至ったきっかけは、ある先輩販売員の一言だった。
「お客様に喜んでいただくための、役者でいなければいけない」
最初は違和感があった。
なぜ“演じる”必要があるのか。自分のままではいけないのか。
でも、接客の経験を重ねる中で、少しずつ意味が分かってきた。
自分らしさを大切にすることと、お客様に合わせて表現を変えることは、矛盾していない。
むしろ、
その人にとって心地よい距離感や言葉を選ぶことが、本当の意味での“寄り添い”なのだと思うようになった。
そしてもう一つ。
どれだけ良い演出をしても、ステージそのものが整っていなければ、その価値は伝わらない。
空間、清潔感、空気感。
すべてが揃って初めて、体験として成立する。
販売員は、ただ商品を説明する人ではない。
その場に立ち、空気をつくり、体験を成立させる存在だ。
つまり、
ステージに立つ役者のようなものだと思っている。
幕が上がる前から、お客様はすでに見ている。
その意識を持つだけで、見える景色は変わる。
どんなに良い商品でも、
誰がどう届けるかで、印象は変わる。