
「手を出したくなる」気持ちと、見守ること|進路主任の言葉を、今も大切にしている理由
忘れられない一言
「時間がかかっても、一人でできることを増やすことが大切」
以前、勤務校の進路主任に言われた言葉です。特別支援学校の知的障害部門で教員をしていますが、この言葉は今でも、指導の軸のひとつになっています。
授業や生活の場面では、手を貸せばすぐに終わることがたくさんあります。ボタンを留める、道具を片付ける、次の作業に移る。教員が少し手伝えば、時間どおりに進みます。
でも、それでは本人の「できた」は増えていきません。
見守るのは、意外とむずかしい
私が指導の中で大切にしているのは「見守る」ことです。
言葉にすると簡単ですが、実際にはなかなかむずかしいものです。授業には時間の区切りがありますし、ほかの生徒もいます。迷っている様子を見ると、つい声をかけたり、手を伸ばしたりしたくなります。
それでも、できそうなところは少し離れて待つようにしています。そのために意識していることがあります。
手順を見えるようにしておく:写真やカードで手順を示しておくと、教員が声をかけなくても、本人が次にやることを自分で確かめられます
手伝う量を少しずつ減らす:最初は一緒に、次は一部だけ、最後は見守るだけ。一度に全部を任せるのではなく、段階を踏みます
待つ時間を、あらかじめ見込んでおく:時間がかかることを前提に、活動の計画を立てておきます
できたところを具体的に伝える:「ここまで自分でやれたね」と、結果だけでなく過程を認めます
見守るのは、放っておくことではありません。本人が自分の力でやり切る時間を、大人が守ること。私はそう考えています。

進路先で求められる力を考える
高等部の生徒の進路先は、さまざまです。企業での就職、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、そして生活介護。2025年10月からは、本人に合った働き方を一緒に考える「就労選択支援」も始まりました。
進路先によって求められることは少しずつ違います。企業では、毎日決まった時間に通うことや、報告・相談ができること。就労継続支援の事業所では、自分のペースで作業を続け、休憩で気持ちを切り替えること。生活介護では、好きな活動や心地よく過ごせる時間をもち、その人なりの方法で気持ちを伝えること。
ただ、並べてみると共通していることがあります。生活のリズムが整っていること、困ったときに「手伝って」と伝えられること、身の回りのことを自分でできる範囲が広がっていること。
働くための準備を段階で表した「職業準備性ピラミッド」という考え方でも、いちばん下の土台は健康管理や生活のリズムです。仕事のスキルより前に、毎日の暮らしを整える力がある。これは、どの進路に進む生徒にも当てはまります。
「どこに進むか」より「どんな毎日を送るか」
進路の話になると、どうしても「一般就労できるかどうか」に目が向きがちです。でも、私はどの進路にも上下はないと考えています。
働いて得たお金で好きな物を買う楽しさ。仲間と作業する充実感。好きな音楽や創作活動に打ち込む時間。安心できる場所で、信頼できる人と過ごす毎日。どれも、その人にとっての豊かさです。
だからこそ、学校でできるのは、どの進路に進んでもその人が自分らしく過ごせるように、「一人でできる」をひとつずつ増やしていくことだと思っています。着替えが一人でできれば、朝の時間に少し余裕が生まれます。「手伝って」と言えれば、新しい場所でも安心して過ごせます。小さな「できた」の積み重ねが、卒業後の暮らしを支えていきます。
おわりに
「時間がかかっても、一人でできることを増やす」
時間はかかります。でも、その時間は決して無駄ではないと思っています。
明日も、手を出したくなる気持ちを少しこらえて、生徒が自分の力でやり切る姿を見守っていきたいと思います。
保護者向けに、家庭でできる「一人でできる」を増やすステップや、進路先ごとに求められる力をまとめた記事も書いています。よければあわせて読んでみてください。