
第6章_4-7 東京という新しいピット
【BGM】
【第6章】
4
東京では、会社の寮で一人暮らしを始めた。
最寄り駅から少し歩いた住宅街の一角にある、古くも新しくもない三階建ての建物。
外観はどこにでもあるような白い壁で、玄関の横には小さな管理人室があるだけだ。
手を伸ばせば壁に届くような広さで、家賃は破格。
六畳一間に小さなキッチンとユニットバス。
収納は押し入れ一つ分くらい。
家具といえば、支給されたシングルベッドと、小さなテーブル、それから自分で買ったテレビだけ。
周りは静かな住宅街で、夜になってもエンジン音よりテレビの音のほうがよく聞こえる。
窓を開ければ、どこかの家から洗濯機の回る音や、夕飯の匂いがほのかに流れてくる。
岡山の実家で聞いていた、父親の帰ってくるトラックの音も、祖母の台所の音も、ここにはない。
仕事を終えて電車に揺られ、寮に帰る。
改札を抜け、いつもの道を歩き、無言で玄関の鍵を開ける。
「ただいま」と声に出す相手もいないので、靴を脱ぐ音だけがやけに大きく響く。
ワンルームに入ると、部屋の空気は昼間のまま止まっている。
カーテンを開けると、近くのマンションの明かりがいくつか点いているのが見える。
それぞれの窓の向こうに、それぞれの生活があるのを感じながら、自分の部屋だけが、ぽつんと切り離されているような気がした。
そこから先は、スマホ(当時に買い替えたガラケー上がり)で動画を見たり、ゲームをしたりするくらいしか娯楽がなかった。
テーブルの上にコンビニ弁当を置き、テレビをつけて、なんとなくバラエティ番組を流す。
笑い声が流れていても、それに合わせて笑っている自分が、どこか他人事に見える夜もあった。