
大丈夫の行方
彼は目を合わせなかった。
俯いたまま「大丈夫だよ」と呟いた。
彼から発せられた「大丈夫だよ」という言葉には、温度が全く感じられなかった。
まるで空っぽの、ただの字となり返事が返ってきたようだった。
直感的に、彼は大丈夫じゃないけれど
大丈夫と言うしかなかったのだと思った。
しかし、わたしは踏み込むことが出来なかった。
というより、立場的にわたしにできることはなかった。
彼の発した"大丈夫じゃない大丈夫"は
一体どこに行ってしまったのだろうか。
無理やり飲み込んだ"大丈夫じゃない"を
彼ひとりで抱え続けるのだろうか。
"大丈夫じゃない大丈夫"がどんどん増えていって彼を壊さないだろうか。
大人なのだから自分自身で言えるようになった方がいいよね。"大丈夫じゃない"ことくらい。
でも追い込まれると、助けを求めるエネルギーすらなくなってしまうこともある。
周囲の雰囲気を読み取って迷惑掛けられないと思ったり、自分でどうにかしなければと責任感を感じていたり。
そういう時"大丈夫じゃない"という言葉をとてつもなく重く感じる。
"大丈夫"はまるで口癖のように、ペラペラと
でてくるのに。
そこにもはや意味なんてなくて。
もしかしたら、彼もそんな状況に追い込まれていたのかもしれない。
言葉にしないと分からないよね。
ちゃんと意思表示しないと。
そうなんだよ、その通りなの。
だからこそ、彼のことを想像するとやるせなくなった。
SOSを出すことが苦手な人や、どうしても人を頼ることが難しい状況ってあると思う。
どうか、全ての"大丈夫じゃない大丈夫"が
いつかはちゃんと収まるところに収まりますように。
"大丈夫じゃない大丈夫"な人たちが、
誰かと分かち合うことができますように。
全ての"大丈夫じゃない大丈夫"が
心の底からの"大丈夫"になりますように。
「大丈夫じゃないよ」そう言いたくても
言えない時がある。
たったひと言なのに、どうしてこんなにも難しいんだろう。
そのひと言に、焦りとか不安とか疑問とか
いろいろなものが詰まっているからかな。
たったひと言だけれど、ただのひと言じゃないもんね。