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Photo byhosiart

知らない人の車に乗った中2の話

    前回の記事で怖い話を書いた。
    今回は、怖くない話を書く。

    知らない人の車に乗った中2の話だ。

    「良かったら、乗りませんか?」
    車がスーッと近寄ってきて、
    知らないおじさんが言った。

    私は突然のことでびっくりした。
    そして当然ながら警戒した。
    昔、さらわれそうになったことがあるからだ。


    何この人。
    また不審者?
    眉尻をキッとあげた。

    私に睨まれて
    知らないおじさんは困った顔をしていた。
    道に迷って走りに走っていた私よりずっと
    困った顔をしていた。

    おじさんの顔には「断ってくれないかな」と
    書いてあった。
    私に声をかけたことを
    すでに後悔しているみたいに見える。

    ほらみろ、完全に引いてるじゃないか。制服姿の女の子に声かけるなんて、絶対不審者だと思われてる。やっぱ声かけなきゃ良かった。

    おじさんの困った顔から、そんな声が聞こえてくる。

    「あの、さっき教えた道、間違ってたみたいで…急いでるなら…乗っていきますか?」

    おじさんが困った顔でそう言う。

    あ、さっき道で会ったおじさんだ。


    さっき、私は道に迷っていた。

    生徒会の行事に出席するため
    他の中学校へいくはずだった。

    完全に迷った。
    念の為と書いてもらった地図をこねくりまわして
    さらに道を外れていった。

    こうなったらと
    周りの大人達に片っ端から場所を聞いた。
    おばさん、おねえさん、学生さん、おじいちゃん、おじさん。

    その中の1人にいた「おじさん」だ。

    おじさんは見当違いの場所を教えてくれた。
    「あっちの方じゃなかったかな?」

    そんな外れ値も織り込み済みだったので、たくさんの意見を聞いて、大体の場所は把握できた。
    問題なく目的地には近づいてきていた。

    ただ、迷いすぎて、
    約束の時間には間に合いそうもなかった。
    仕方がない。
    こんなこともある。
    そう思いながら、
    できることは急ぐことだけだったので、
    とにかく全力疾走していた。

    車から声をかけてきたのは、
    その外れ値のおじさんだった。


    多分おじさんは私に適当な場所を教えた後、
    車に戻って地図を調べてくれたのだろう。
    そこで、しまった!間違った場所を教えちゃった!と気がついた。

    そして
    「まあいいか」と、
    「大丈夫かなあの子」
    の葛藤をしながら、
    車で探してくれたのか偶然なのか
    全力で走る私を見つけた

    のだろう。

    まだ、葛藤の切れ端が残っていた。
    ずっと逃げ腰で、私が断ったらすぐさま
    「あ、そうですか、気をつけてね」
    と走り出しそうだった。

    いい人だ、このおじさん。
    いい加減な答えをした自分がゆるせないんだ。

    でも同時に臆病な人だ。
    責任を負いたくない気持ちとか
    電車で席を譲る声をかけようかかけまいかまようような、
    周りの目を気にする
    私と同じ、普通の人。
    善良でありたいと願いながら
    及び腰でもある
    普通のいい人。

    想像でしかないけども。


    私は信じたかった。
    怖い目にあってもなお
    人間の善意を信じたかった。
    のだと思う。

    私は車に乗せてもらうことに決めた。


    「ご親切にありがとうございます!お願いします!足が死ぬところでした」

    車は営業車らしく、後部座席にダンボールが雑然と詰め込まれている。

    助手席に座った。
    シートベルトをつけるのが怖かった。
    もしかしたらが頭をよぎる。

    おじさんを信じようと思ったくせに、
    やはりカチンコチンに緊張していた。

    「いろんな人に声かけていたので、全然大丈夫でした。すみません、気を遣わせてしまって」

    「いえいえ、こちらこそ間違った道を教えてしまって本当に申し訳ありませんでした。」

    おじさんもカチンコチンに緊張して、
    取引先に話しかけるみたいなテンションで
    会話をする。

    沈黙になるのが怖くて、
    お互い噛み合わない会話を続けた。

    なるべく個人情報を話さないような穏当な話。
    なるべく個人情報を聞き出さないような天気みたいな話。

    あっという間に目的地に着き、
    ホッとした空気が流れた。

    「ありがとうございました!本当に助かりました!」
    緊張したのが申し訳なくて、車を降りた私は元気いっぱいにお礼を言う。

    「送り届けられてよかったよ、頑張ってね!」
    ホッとしたおじさんも、おじさんらしい口調になって笑顔を見せた。

    「はい、いってきます!」

    おじさんが「じゃ!」みたいに手を上げたので
    私は思いっきり手を振った。

    長年知り合ったもの同士のように
    手を振って見送った。


    そんななんでもない一日の話。




    おわり。

    *なんでもない話なんだけど、私にとっては
    怖かった「おじさん」が
    怖くない「おじさん」もちゃんといる。
    確かにいる。ということがわかった
    大事な日だった。
    *おじさん、その節はありがとうございました。助けられた鶴です。
    *あのおじさん、帰って「今日迷子の子を助けたんだよー」って自慢してくれてるといいな。


     
     
    スキとフォローとコメントを息をするようにしていく女です。節操とプライドは母の腹の中に置いてきたらしいので、礼儀を失したら教えてください。すぐ謝りたい。 42歳、子どもが3人、夫が1人、犬が1匹。

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