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ひらがなに沼って|第1回「い」はいつだって優しいから


    「い」という字は、何も考えずに書けるのが良い。ちょんちょんと左右に筆を動かすだけで、それが「い」だと分かるくらいには字が成り立つ。これって、結構すごいことだと思う。「い」を編み出した人、天才か。


    でも「い」とあらためて向き合った時、きちんと書こうとすると意外に難しい。一画目は思ったよりも長いし、二画目は一画目に対してバランスよく置く必要がある。一画目より短くなりすぎないように気をつけながら、一画目から離れすぎず近すぎないところに置かなければならない。

    普段、こんなにも慎重に「い」を書いているだろうか。最後に「い」をちゃんと書いたのはいつだろう。
    こんなにも適当に扱っているのに、いつだって「い」は「い」として成り立ってくれる。誰が読んでも「い」の状態になってくれる。なんて優しいんだ。


    でも、その優しさに甘えすぎていないだろうか。
    他の字は丁寧に書いているのに、「い」はいつもコンマ数秒で書き終えられる。他の字が時間をかけて書かれているのを横目に、「私は書くの簡単だから、仕方ないね…」なんて、実は傷ついていたりしないだろうか。「隣の字はちゃんと書いているのに」と、心に何か引っかかっていたりしないだろうか。

    そんな悲しみや苛立ちも飲み込んで、涼しい顔をして成り立っている「い」。ちょっとだけ自分と重なって見えて、なんだか泣けてきた。


    我慢はいつか爆発した時が怖い。それは私自身が身をもって知っている。
    「い」が穏やかな気持ちでいられるように、今日はきちんと「い」を書いてあげたい。



    ▼「ひらがなに沼って」まとめ



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