
「起業家に学歴は関係ない」は本当か~銀座の起業家ネットワークで見た現実
「起業するのに、学歴は関係ない」
ビジネスの世界では、よく耳にする言葉だ。
確かに、会社をつくるのに大学の卒業証書は必要ない。高卒でも大卒でも、商売がうまくいくかどうかは別の話である。
学歴がなくても大きな会社を築く経営者はいるし、有名大学を卒業していても、経営に失敗する人はいる。
私自身、起業を経験しているので、この言葉の意味はよくわかる。
しかし、かつて銀座の起業家ネットワークに所属していたとき、私は少し違った現実を目の当たりにした。
銀座に集まる起業家たち
私が所属していた起業家ネットワークには、数十人のメンバーがいた。
そこで意外に感じたのは、その顔ぶれだった。
一橋大学、早稲田大学、慶應義塾大学、さらには海外の大学の出身者が、メンバーの大半を占めていたのである。
起業家というと、学校の勉強より商売に熱中し、若いうちから自分の腕一本で道を切り開いてきた人物を想像する人もいるだろう。
もちろん、そういう経営者もいる。
ところが、私が身を置いた環境では、名門大学を卒業した人たちが、それぞれの分野で事業を営み、互いに交流していた。
そこで私は考えた。
「起業家に学歴は関係ない」という言葉は、本当に正しいのだろうか。
学歴がなくても起業はできる。しかし……
会社を設立するだけなら、学歴は必須ではない。
事業のアイデアを考え、商品やサービスを提供し、顧客を獲得する。売上をつくり、利益を確保し、資金繰りを管理する。
経営に必要なのは、実務能力、判断力、営業力、そしてリスクを引き受ける覚悟だ。
どれほど偏差値の高い大学を卒業していても、顧客が商品を買ってくれなければ売上は立たない。
経営者になれば、大学の成績表ではなく、会社の数字と向き合わなければならない。
しかし、だからといって学歴に意味がないとは言い切れない。
大学時代に築いた人間関係。卒業後に広がる仕事上のネットワーク。学生時代に身につけた知識や学習習慣。
そうしたものが、社会に出てからの選択肢を広げることはある。
銀座の起業家ネットワークで私が実感したのは、学歴そのものが経営能力を保証するわけではない一方で、学歴によって形成された人脈や環境が、ビジネスの機会に影響することはある、ということだった。
防犯センサーの会社を設立しないか
実際に、こんな経験があった。
懇意にしていた慶應義塾大学出身のご夫婦から、防犯センサーの会社を一緒に設立しないかと誘われたのである。
ご主人は元東芝勤務。奥様は慶應義塾大学の現役教授だった。
お二人とも慶應義塾大学の出身で、それぞれ異なる経歴と専門性を持っていた。
異なる分野で経験を積んできた人たちが出会い、互いに信頼関係を築く。そして、新しい事業の構想が生まれる。
異業種交流の面白さは、まさにこうしたところにあるのだろう。
残念ながら、この会社設立の話は頓挫し、実現には至らなかった。
しかし、お二人とは懇意にしていた。
新しい会社をつくるという話が持ち上がったこと自体、交流が単なる名刺交換で終わっていなかった証しでもある。
人脈ができれば、必ず事業が成功するわけではない。
どれほど魅力的な構想でも、事業化に至らないことはある。
それでも、人との出会いがなければ生まれなかった話があるのも事実だ。
早稲田卒の若手社長が経営するマッサージ店
ネットワークには、早稲田大学卒の若手社長もいた。
その社長は、銀座と神奈川にマッサージ店を展開していた。
私自身、アロママッサージをサービスで受けさせていただいたこともある。
異業種交流会というと、会議室で名刺を交換し、互いの事業を紹介し合う光景を思い浮かべるかもしれない。
しかし、実際の交流はもっと幅広い。
相手がどんな仕事をしているのかを知り、その事業に触れ、時にはサービスを受ける。そうした経験を通じて、相手の仕事や人柄への理解が深まることもある。
もちろん、サービスを受けたからといって、必ず取引につながるわけではない。
だが、異業種の経営者と知り合うことで、普段の生活や仕事では接点のない世界を知ることができる。
これもまた、人脈を広げることの面白さだと思う。
異業種交流会のメリットとデメリット
異業種交流会の最大のメリットは、自分の知らない世界に触れられることだ。
同じ業界の人たちとばかり付き合っていると、考え方も情報源も似てくる。
ところが、異なる業界の経営者と話せば、商売の仕組みも、顧客との接し方も、経営上の悩みも違う。
その違いを知ることが、新しい発想につながることもある。
また、取引先や協業相手、専門家と出会える可能性もある。自分一人では解決できない問題を、ネットワークを通じて解決できる場合もあるだろう。
一方で、デメリットもある。
名刺が増えたからといって、売上が増えるわけではない。
交流会で意気投合しても、実際の仕事につながるとは限らない。「いつか一緒に何かやりましょう」という言葉だけで終わることもある。
さらに、肩書や学歴が立派だからといって、相手の経営能力や人間性まで保証されるわけではない。
人脈づくりに熱中するあまり、本業がおろそかになってしまえば本末転倒だ。
交流のための交流になっていないか。
相手の肩書だけで判断していないか。
こうした点には注意が必要だと思う。
人脈は、集めるものではなく育てるもの
銀座の起業家ネットワークで過ごした日々は、私にとって毎日が異業種交流会のようなものだった。
一橋大学や早慶、海外の大学の出身者と接する。
慶應義塾大学の教授夫妻から新会社の設立を持ちかけられる。
早稲田大学卒の若手社長が経営する店舗のサービスを体験する。
それぞれ違う経歴を持つ人たちと交流することで、ビジネスの世界の広さを知ることができた。
そこで感じたのは、学歴は人脈形成の一つの要素になり得るが、それだけですべてが決まるわけではないということだ。
有名大学を卒業していても、相手から信頼されなければ関係は続かない。
反対に、学歴や肩書に関係なく、仕事への誠実さや人間的な魅力によって人脈を広げる人もいる。
結局のところ、重要なのは、相手に何を提供できるか、自分にない知識や経験をどう学ぶか、そして信頼関係をどう育てていくかだろう。
人脈は名刺の枚数では測れない。
知り合った人数を自慢することにも、大きな意味はない。
いざというときに相談できる人がいる。互いの仕事を理解している。一緒に何かを始めようという話が生まれる。
そうした関係こそが、人脈の価値なのだと思う。
起業家に学歴は関係ない。ただし……
起業家に学歴は必要条件ではない。
しかし、学歴によって築かれた人間関係や、そこから生まれる機会が、ビジネスの世界で意味を持つことはある。
私は銀座の起業家ネットワークで、その現実を実感した。
そして、もう一つ大切なことがある。
どんな学歴を持っていても、どれだけ立派な人脈があっても、事業を成功させるためには自分自身の力で結果を出さなければならない。
人脈は、成功を保証してくれるものではない。
しかし、自分一人では出会えなかった人や、思いつかなかった可能性に巡り合わせてくれることがある。
学歴は人生を有利に進める一つの要素かもしれない。だが、人脈を生かせるかどうかは、その人自身にかかっている。
異業種交流会の価値は、名刺を何枚集めたかではない。
そこから何を学び、誰と信頼関係を築き、どんな可能性を見つけたか。
銀座で過ごした日々を振り返ると、私はそう思うのである。