
gift#19/お供えものと弟と絶対平行
実家に帰ると、ダイニングテーブルの上に井上雄彦氏著「リアル」の17巻が置いてあった。
母にたずねると、弟が置いていったのだと言う。
思えば私が実家にいた頃からこの習慣はあった。漫画、CD、ゲーム、新しいものが手に入ると彼は無言で私にパスして来る。
頼んだ覚えはないんだけど。
そう思いながらも、あり余る時間をつぶすのにちょうど良いので、ひととおり目を通したり聴いたりプレイしてみたりしていた。
連載の単行本だと、たまに1、2巻くらいすっ飛ばして持って来るときもあった。
まめなのか適当なのか。
そういうところは地味にイラッとする。
しかしそこでぶち切れるほど暴君でもないので、気が付いていないふりをして黙っていた。
面白いのは、共有はするけど共感する時間はお互いに持とうとしないというところだ。感想を言い合うとか、関連するイベントに一緒に行くとか、今まで一度もしたことがない。
恐ろしく義務的なやり取りだけをただ、淡々と続けている。
それ以外にも駄菓子に、グミ、プリン、缶チューハイなどいろいろ置いていく。
手ぶらで来たら祟られるとでも言わんばかりに、供物のように。
世の中の姉と弟は、大体どこもこういう感じなのだろうか。
私たちはものごころついたときからずっとこんな感じで、たぶん産まれる前からプログラムされていたんじゃないかと錯覚するほどの、この絶対値を保ったままこれから先も続いていくような気がしている。
★
弟は毎年、初春を過ぎる頃に友人と雪国へスノーボードをしに行く。その時も必ずお土産を買って来る。
どうやら「お土産を買うこと」が好きなようだ。
初めのうちは勝手が分からなかったのか、たぶんホテルの売店で買ったのであろう、わりとガチめのくまのプーさんのぬいぐるみが輪っかを持っているデザインのタオル掛けを渡されて、さすがに言葉を失った。
なぜこれにしたのか。
姉のイメージのどの辺りからプーさん喜びそう要素を見出したのか。
ちょうどタオル掛け欲しかったのー、的なリアクションを期待していたのか。
そう思いながら、ものすごく頑張って
「あ、ありがとう・・・」
とお礼を伝えたけれど、明らかに戸惑いが顔に出ていたのかも知れない。
プーさんとともに買って来たかりんとう饅頭を食べた母が
「これおいしいね」
と発言したことにより、「食べ物」いう無難なジャンルを学習した彼は見事レベルアップを果たした。
某RPGのあの音が鳴り響いたような感じだった。
それから、春の始めには実家にかりんとう饅頭がやって来ることになった。
次の年も、その次も、その次も、かりんとう饅頭が続いた。
ある年、とうとう母が
「ちょっと、別のものがいいかな」
やんわりとかりんとう饅頭との決別宣言をしたことによって、彼はまた土産物迷宮を彷徨うことになった。
★
そんな様子を見ていて、じゃあどうせならこちらの要望を先に伝えておいた方が彼にとっても助かるんじゃないか、と思い付いた。
私も予想外のものを受け取って取り乱すこともなくなるし、まさにこれはWin-Winではないか!と。
今度のスノボは北海道へ行くそうだ、と母から伝え聞いた私はさっそく銘菓「白い恋人」をリクエストした。本当は「マルセイバターサンド」が1番好きなのだが、弟には難易度が高過ぎるのではないかと危惧したのだ。
「白い恋人」なら間違いなく空港の目立つところに売っているだろうし、探すことは困難ではないはずだ。
慌ただしい旅程を邪魔するようなものをお願いしてはいけないだろうという、姉なりの最大限の譲歩だった。
数週間後、母からLINEが届いた。
「なんか全然ちがうの買って来たよ」
どうしてそうなった。
弟が新千歳空港で買って来たのは、入手困難で有名な冬季限定ブランドの人気スイーツだった。
自ら難易度を爆上げしている。
「すっごい行列に並んで、すっごい時間かけて買ったって言ってる」
えぇー・・・だから、だからさぁ。
頼んだ覚えないんだけど。