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Photo bynoriguchi

月を見る #シロクマ文芸部

    ※BL要素があります。


    月を見る。きれいな満月だった。

    会社の送別会終わり、家が同じ方向の井上さんと一緒になった。

    今月の末に俺が会社を辞めたら、こういう時間もなくなる。
    駅を出て、少し先をスタスタ歩いていた井上さんが、不意に足を止めた。

    「少し話さない?」
    「へ、は、はい」

    井上さんがコンビニに入ったので、俺もついていった。

    井上さんはブラックコーヒー。
    俺は、迷いに迷ってアイスを買った。
    チョコのモナカのやつ。

    「夜なのに、コーヒー平気なんですか?」
    「ああ、カフェイン?全然平気。すぐ寝れる」
    「カフェインに勝てるんだ」
    「そう、全然効かない」

    笑い合いながら外に出た。
    目の前の小さな公園のベンチに、並んで座った。

    「フリーって何するの」
    「うーん、しばらくは今の会社の委託を受ける予定です。だから、あんまりフリーじゃないかも」
    「いいんじゃない、堅実で」
    「ですよね」

    モナカを齧りながら、少し黙った。
    これ、美味いけど、モナカの皮が上あごに貼り付くんだよな。

    コーヒーを飲んでいた井上さんが口を開いた。

    「青山くんの、好きなタイプは?」

    隣を見ると、じっとこっちを見ていた。

    「え?好きなタイプ?……俺は、わかりにくい人が好きです」
    「わかりやすかったら、好きにならない?」
    「好きになれば、知れば知るほど、もっと知りたいって思う、かな」
    「それは、欲張りだな」
    「そう。俺、欲張りなんですよ」

    井上さんはフフッと笑ってコーヒーを啜った。
    この人の目尻にできる笑い皺がすごくいい、と思ってる。

    ふと井上さんが俺の手元を指差した。

    「……アイス、溶けてるよ」
    「わっ!ほんとだ!もう!手がベッタベタになった!」

    井上さんは、夜空を仰いであははと笑った。
    喉仏が見えた。そんな風に笑うんだ。

    慌てて溶けたアイスを口に詰め込んだ。
    べたつく指をペロリと舐めたら、それをじっと見られていた。
    ……しまった。

    「手、洗ってきます」

    水飲み場の低い蛇口にしゃがみこんで手を洗う。
    口にタオルを咥えて、靴に水がかからないように、手を伸ばしてへっぴり腰で。

    ふっと影ができた。
    見上げたら、井上さんがポケットに手を突っ込んで、俺を見下ろしていた。
    月を背にして立っている。
    表情はわからない。唐突にこう言った。

    「俺は、わかりやすい人が好き」
    「えっ、それって……」

    うっかり口を開いたら、咥えていたミニタオルがポトリと落ちた。

    「じゃ、おやすみなさい」

    言うだけ言うと、井上さんはクルリと踵を返し、早歩きで公園を出て行ってしまった。

    水が、じゃあじゃあと流れている。
    落ちたタオルはびしょ濡れだった。

    月だけが見ていた。
    「追いかけろ」と言っているような気がした。

    水を止めて、濡れたタオルはそのままに、井上さんの背中を追った。






     
     
    小説、詩や散文、ひとりごと。 手触りや温度、揺れ動く機微を大切に。 こちらはシリアスめな作品多めです。 ※あくまで当社比 雑多なアカウント「エビちり」もあります。 https://note.com/open_eel2077

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