
汚悪
悪
悪は、なぜ善人に近づくのか?
善人になぜ、悪が入ってくるのか?
善人は、最初から悪を疑って生きているわけではない。
人を信じる。
言葉を信じる。
約束を信じる。
だからこそ、その心の隙間に「悪」が入り込む。
私利私欲に走る悪は、甘い汁を吸う。
自分だけが良ければいいと思い、
人の優しさにつけ込み、
信用を利用し、
最後には大事なものまで奪っていく。
その瞬間だけを見れば、
悪の方が得をしているように見えるかもしれない。
真面目に生きる人間が苦しみ、
人を騙した者が笑っている。
「なぜなんだ」
そう思うこともある。
だが――。
悪は、その時はいい。
しかし、一度落ちた瞬間、
這い上がることができない。
なぜなら、汚いからだ。
嘘を重ね、
人を裏切り、
信用を踏みにじり、
自分の利益だけを求めてきた。
気がついた時には、
助けてくれる人がいない。
信用は地に落ち、
仲間は離れ、
最後には、みなから見放される。
これが「汚悪」の運命だ。
では、善人はどうだろう。
悪に騙され、
大事なものを奪われ、
一度は地に落ちることもある。
悔しくて、
苦しくて、
「なぜ自分が」と思う夜もあるだろう。
それでも善人は、這い上がることができる。
しかも以前とは違う、
さらに強い輝きを見せて。
なぜなら善人は、
それまで「徳」を積んできたからだ。
誰も見ていないところでも、
コツコツと物事に取り組んできた。
人との約束を守ってきた。
困っている人がいれば手を差し伸べ、
人との縁を大切にしてきた。
だから信用がある。
大事な仲間がいる。
そして何より、
ゼロから積み上げる力を知っている。
悪に出会ってしまったことも、
もしかしたら神様から与えられた試練なのかもしれない。
「お前なら、これを乗り越えられる」
そう言われているのかもしれない。
なぜなら善人には、
乗り越えることのできる力が、
確実にあるからだ。
一度地に落ちたからこそ、
人の痛みも知る。
裏切られたからこそ、
本当に大切な人が誰なのかも分かる。
失ったからこそ、
本当に守るべきものが見えてくる。
そして再び立ち上がった時、
以前とは違う光を放つ。
それでも――。
「汚悪」は、なぜかこの世から消えない。
善が存在すれば、悪も存在する。
光が強くなれば、
その後ろには濃い影が生まれる。
光と闇は、
本当に表裏一体なのだろうか。
答えは、まだ分からない。
ただ一つ思う。
悪によって一度消されそうになった光は、
再び灯った時、
以前よりも強く輝く。
悪は奪うことができても、
その人が積み上げてきた徳までは、奪えない。
だから私は思う。
悪に出会ったことを、
人生の終わりにしてはいけない。
それはもしかすると――
新しい自分が始まる前触れなのだから。
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