
ゴトンと落ちたのは、りんごジュースと成長の音。
「じはんき、やりたいの」
3歳になったばかりの娘が、最近よく口にする言葉です。
街角でキラキラ光るその箱は、
いまの彼女にとって、“冒険の入り口”みたいな存在。
自販機を見つけるたびに、
「じぶんでやるの!」と嬉しそうに小銭を握りしめています。
ついこのあいだまで、お金を入れるのは私の役目でした。
でも今では、コイン投入口を探して、自分の手でチャリン。
押したいボタンをじっと見つめて、
「これだよ!」と赤いりんごジュースのボタンをピッと押します。
ゴトンと落ちてくる音がすると、
ぱあっと顔が明るくなって、
両手でぎゅっとジュースを抱えて持ってきてくれます。
最初はペットボトルの重さにびっくりして、落としそうになったりもしていました。
でも最近は、落とさないように“ぎゅっ”と両手で抱えて持ってくる姿が、なんだかたくましくて。
自販機って、かつてのわたしにとっては「便利なだけ」の存在でした。
深夜、コンビニに行くのが面倒なとき。
のどが渇いたけど、お店が近くにないとき。
そのとき“だけ”必要なものをくれる、無機質な機械。
でも今は、ちがう。
娘にとって自販機は、“できることが増えた”場所。
そしてわたしにとっては、成長をそっと見つける小さな舞台です。
自分で選ぶこと。
自分で買うこと。
そして、自分で持って帰ること。
りんごジュースの味は、きっと同じ。
でも、買い方はどんどん変わっていく。
できることが増えるたびに、
娘の顔が少しずつ、自信に満ちていくのが分かります。
「ママも、いっしょにのもうね」
そう言って手渡された、ひんやりとしたペットボトル。
ゴトンと鳴ったあの音と、
ひと口目に広がった甘い味。
あの時の午後の光と一緒に、
きっと私の中にも、ずっとやさしく残り続ける―
そんな“自販機の思い出”になりました。
喜木 拝