
「ま」の帰るところ|おとぎばなしーな
「『ま』って、どうやって書くの?」
女の子がたずねた、その夜のこと。
まっしろな紙のうえで、
ひとつの「ま」が目をさましました。
くるんと丸いからだを起こし、
みぎを見ても、ひだりを見ても、
となりには、だれもいません。
「わたしは、なぜ生まれたの?」
「ま」は答えをさがして、
紙のうえから、そっとぬけ出しました。
どん、どどん。
夏まつりの太鼓が言いました。
「わたしのところへおいで。
『まつり』の『ま』になれば、
毎晩たのしく、おどれるよ」
「ま」は、くるりとおどりました。
けれど、むねの奥は、しんとしたまま。
しゃらん、しゃらん。
魔法使いが、銀の杖を振りました。
「わたしのところへおいで。
『まほう』の『ま』になれば、
星をこんぺいとうに変えられるよ」
「ま」は、星をひとつ食べました。
けれど、むねの奥は、空っぽのまま。
ぽっかり、まあるく。
満月が、夜空から笑いました。
「わたしのところへおいで。
『まんげつ』の『ま』になれば、
迷子の帰り道を照らせるよ」
「ま」は、月の光を浴びました。
けれど、むねの奥は、さみしいまま。
どれも、とてもすてきです。
でも、「ま」が帰りたい場所は、
そこではありませんでした。
やがて、朝の光が
紙のはしを白く染めました。
「ま」は、もとの場所へ帰り、
ひとりで小さく丸まります。
そのとき、女の子がやってきました。
昨日の「ま」をじっと見ながら、
そのとなりに、もうひとつ、
「ま」を書きました。
「ま」と「ま」が、手をつなぎます。
「まま。かけた!」
女の子が、うれしそうに読みました。
その声は、
おまつりの太鼓よりも弾んでいて、
まほうの杖よりも不思議で、
まんげつの光よりもあたたかい。
ふたつの「ま」は、
ぴったり肩を寄せ合いました。
それは、たった二文字の、
世界でいちばんあたたかな、
おとぎばなしのはじまり。
(本文739字)
しーなさんの#おとぎばなしーな に参加させていただきます。
おとぎばな詩をイメージしてたのですけど、こんな感じになりました。
しーなさんの声を想像して綴っていたら、優しい雰囲気に。
どうぞよろしくお願いいたします。
喜木 拝