
うちの図書館、今日も平和です。―おにぎり泥棒の真相―
『おにぎり泥棒』
図書館の休憩室にある、小さな冷蔵庫。
その一角で、ある日からちょっとした異変が起きていた。
「……梅干しのおにぎりだけ、なくなるんです」
眉間に深いしわを寄せながら、ベテラン司書の山田さんがぼそりとつぶやいた。
首をかしげつつも、どこか真剣な面持ち。まるで推理小説の序章みたいな顔つきだ。
それを聞いた新人の佐藤くんも、はっとして目を見開いた。
「僕の……明太子もやられました……」
その声はかすかに震えていて、彼はしょんぼりと肩を落とした。
お昼を楽しみにしていた無念さが全身からあふれ出ていた。
やがて、事態は冷蔵庫の枠を超え、職場全体の“未解決事件”に昇格。
ある朝、休憩室の壁に張り紙が貼られていた。
《おにぎり泥棒は、図書館利用マナー違反です!》
怒りに任せて書いたのがわかる、筆圧の強いマジックの文字。
憤慨した館長の筆跡は、紙の端まで震える勢いで滲んでいた。
その前で、職員たちは無言でうなずきあった。これはもう、黙って見過ごせる問題ではない。
そしてついに―
“本気モード”発動。
休憩スペースの監視カメラ映像を確認することになった。
緊張が走る、会議室の一角。
「……再生、します」
パソコンの画面に映ったのは、パートタイマーの柴田さん。
どこか妙にリズミカルな動きで、両手を振っていた。
「え……?」
息をのむ職員たち。
しかし、その手にはおにぎりではなく―
ジャニーズのうちわ。
「えっ、あぁ!……休憩中にTikTok撮ってたんです」
本人はケロリと笑いながらそう答えた。
職員たちは、まさかの展開にまばたきを忘れ、静かに目を見合わせた。
「そっちか。」
だが、肝心の“おにぎり泥棒”はいまだ謎のまま。
もはや迷宮入りかと思われた、数日後―
棚の裏から、ついに“現場”が発見された。
冷蔵庫のすき間に落ちて、カッチカチに冷凍されたおにぎりたちが、ずらりと勢ぞろいしていたのだ。
山田さんの梅干し、佐藤くんの明太子、館長のツナマヨまで……誰ひとり盗まれていなかった。
「……これ、犯人は冷蔵庫の段差ですね」
と誰かが言った。
一同、ずっこけるような、拍子抜けのような、
「なんとも言えない顔」で顔を見合わせた。
こうして、事件は解決(というか自然消滅)を迎えたのだが―
なぜか後日、佐藤くんがこの話をnoteに書いた記事が、まさかの大ヒット御礼。
「職場の冷蔵庫が、まさかの感動ドラマに化けた」
「日常に潜む小さな“ミステリー”が癒される」
「おにぎりの供養に泣いた(嘘)」
SNSでは、そんな感想が次々に拡散された。
「職場の地味な日常に潜む、シュールな可笑しさが、現代人の心に響いたのかもしれません」
佐藤くんはそう言って、ちょっと得意げだった。
そして柴田さんは、TikTokでバズった動画を見せながら言った。
「やっぱり、推し活も職場の潤滑油ね〜」
今日も、図書館の冷蔵庫は静かに稼働している。
たぶん―もう、おにぎりは落ちていない。たぶんね。
ヤスさんの「三題噺」の企画で綴りました。
ちょっと笑えると嬉しいです。
喜木 拝
≪今週のお題≫
1.おにぎり
2.監視カメラ
3.大ヒット御礼