
通園路の途中で見つけた物語【読書さんぽ】
朝の道は、いつも同じ顔をしているようで、きょうは少し違う。
小さな手を握って歩くと、世界の解像度が上がる。
物語は、本の中だけにあるんじゃない——そう思う瞬間がある。
通園路は、だいたい決まっている。
角を曲がって、信号を渡って、いつもの横断歩道。
わたしの足は“急ぐ”を覚えていて、つい先へ先へと進もうとする。
でも、娘は違う。
「みて。ここ、きょう、キラキラしてる」
指さした先は、昨夜の雨が残した水たまり。
アスファルトのくぼみに、空がちいさく落ちていた。
風が吹くたびに、雲が動く。
娘はしゃがんで、空をのぞき込むみたいに水面を見ている。
わたしは一瞬だけ、時間の針をゆるめた。
“遅れないように”の気持ちが、すこしだけ後ろに下がる。
そこから少し進んだところで、
フェンスに引っかかった 片方だけの子ども用の手袋 を見つけた。
薄いピンクで、指先がちょっと黒ずんでいる。
誰かが、握ったり、振ったり、転んだりして、たくさん使った手袋。
落としたのは誰だろう。
泣いたかな。探したかな。
「もう行くよ」って急かされて、あきらめたのかな。
それとも、手袋のほうが先に“冒険”を選んだのかな。
娘は言った。
「このてぶくろ、ひとりぼっち?」
——ひとりぼっち、って言葉を、こんなふうに使えるんだ。
胸の奥が、きゅっとなる。
わたしは手袋を拾って、
近くの目立つ場所にそっと移した。
落とし物の正解はいつもわからないけれど、
せめて“見つかる可能性”だけは、少し上げておきたかった。
園の門が見えてきて、娘の足取りが少し早くなる。
今日の“いつも”が始まる前の、短い散歩時間。
わたしは心の中でメモを取った。
この道は、きょうもちゃんと、物語だった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
この先(メンバーシップ限定)では、「通園路で見つけた物語」に似合う絵本3冊と、30秒でできる“読書さんぽワーク”を置いておきます。
読むだけの方も大歓迎です。ゆるく、どうぞ。