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娘と探した、夏の音のかくれんぼ

    夏の音。
    じりじりと照りつける陽射しの下で、空から降るように響いてくる蝉の声。
    風が吹くたび、玄関先の風鈴が、かすかにチリンと鳴る。
    それだけで、ああ、今年も夏がきたんだなと、身体が思い出す。

    娘と、蝉を探した。
    耳をすませば、確かに聞こえるのに、どこにも姿が見えない。
    「あっちかな?」「この木のうえ?」
    2歳の娘は、両手で小さな望遠鏡をつくって、空をのぞく。
    でも、どんなに目をこらしても、蝉は見つからなかった。

    「どこにかくれちゃったのかなぁ」
    「うーん、かくれんぼしてるのかもね」
    「もっとたかいところにいるのかなぁ」

    目に見えない音を、探す時間。
    風に乗ってくる声に、耳をすます時間。
    娘と並んで空を見上げていたあの午後は、
    「せみはいなかったね」じゃなくて、
    「せみのこえ、いっぱいきこえたね」っていう記憶になる。

    きっと夏の音は、見つけるものじゃなく、味わうものなんだと思う。

    風鈴の音も、
    蝉の鳴き声も、
    冷たい麦茶をすする音も、
    シャワーのあとに床を歩く、ぺたぺたという足音も。

    全部、夏の音。
    全部、この夏だけの、わたしたちの音。

    喜木 拝


    #シロクマ文芸部 さんの企画で綴りました。
    3歳になったばかりの娘に、まだ実際の蝉を見せられていません。
    蝉の声も、こころなしか少なく感じるこの夏。
    でも――聞こえたこと、耳をすましたこと。
    それだけで、わたしたちの夏になりました。

    ここまでお読みいただき、ありがとうございました💖


     
     
    本が好きなのに、今は読めないあなたへ。 本とことばで、忙しい毎日に小さな余白を届けます。 図書館司書/4歳娘の母/ブックシェアコーディネーター。 メンバーシップ「凛のことのはライブラリー」運営中。

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