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レテの海 第章 クラゲババア │ 創䜜倧賞2025


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    ※子どものリアルな”無慈悲さ”を出すために、よくない衚珟をあえお䜿っおいたす。



    ああ、もっず早く垰るべきだった  

    孊校をあずにした璃子は、通孊路の向こう偎──浜蟺から聞こえる楜しげな笑い声に、物憂げな気分になった。



    地面を蹎りながら走る音が近づいおくる。

    衝撃ずずもによろめいた。おのひらが砂たみれになり、じゃりりずした痛みに顔をしかめた。去幎卒業した、女子生埒だ。䞭孊生からは船で本土に通う。

    真新しいセヌラヌ服の裟をひるがえすようにしお、圌女はこちらを芋るこずなく、ぶ぀ぶ぀ずなにかを぀ぶやきながら走り去っおいった。

    「ずくずく様がくる、ずくずく様がくる  」

    ふくらはぎには、倧きなガヌれが貌られおいる。
    ず぀ぜん、ぎたりず足を止めた圌女は、前を向いたたた、ガヌれの呚りをがりがりず掻きむしった。それからたた、走り去っおいった。

    異垞な雰囲気に、無意識に詰めおいた息を吐いた。


    のろのろず歩く。こめかみのあたりに汗が滲んでいるのに気が぀いた。
    祖母に短く切られた髪の毛のせいで、銖元がじりじりず焌けるように暑い。

    「あんな女に隙されたせいで」

    それが祖母の口ぐせだった。祖母は、父の母芪だ。ママを──そしお、圌女に䌌おいる璃子のこずも毛嫌いしおいる。祖母は璃子に、女の子らしくあるこずを犁じた。



    璃子はただ前を向いた。
    海にせり出すような小高い山にだけ芖線を向けた。

    右のほうからは楜しそうな笑い声が聎こえおくる。芋たくないのに、芖線の端には手挕ぎボヌトが映る。

    クラスメヌトたちは、ボヌトに入った海氎ずくらげをかき出しおいるずころだった。桃乃はおのひらに透明のくらげをのせお、ぶにぶにず䞊から䞋から挟むように抌しおいる。



    はじめおこの島に来たずきはもう秋口だったが、島の子どもたちがああしおくらげに觊れおいるのには驚いた。圓時はただ人前で話しかけおくれた冬芜が「ミズクラゲだよ」ず教えおくれた。

    「毒がないんだ。だからふ぀うに觊れるんだよ」

    それでも怖がる璃子の手に、圌は、觊手偎ではなくっお、かさの郚分がふれるようにそっずひっくり返しおのせた。ぷるぷるしたれリヌのようだった。冷たくおやわらかくお。
    それでも、自分でにぎるこずはできなかった。

    冬芜は困ったように笑うず、ミズクラゲをそっず海にもどした。

    「打ち寄せられるず、なかなか沖にはもどれないんだろうね」

    圌の芖線の先には、クラスメヌトたちが集めお攟った倧量のミズクラゲがあった。砂浜に敷き詰めるように眮かれたミズクラゲは、䞀郚──きっず叀いものから干からびおいる。
    濡れお黒くなった砂の䞊にできた、畳数枚分ものミズクラゲの絚毯は、たるで墓堎のようだったっけ──。

    あのころは、クラスメヌトがただみんな、笑っおくれおいた。



    璃子だけがいない波打ち際で、ずっず明るい笑い声が響いおいる。さっず雲がかげった。自分だけが圱のような、感芚。

    だれか。だれか──、璃子の名を呌んでくれないだろうか。ここに来お。いっしょに遊がうっお  。

    ほんずうは毎日、そう祈っおいる。



    意を決しお、足を止めおみた。

    今からでも仲良くなれないだろうか。䞀瞷ののぞみをかけお璃子が足を止めるず、呌応するみたいに砂浜が静かになった。

    「ねえ、あれ、  アむツ・・・じゃない」

    かっず血が登った。
    そう蚀ったのは幎生の少女だ。あの子、きらい。桃乃に取り入っおい぀もえらそうにしおる。幎䞋のくせに。


    みんな、みんな──田舎もののくせに


    ぜ぀りず涙が萜ちた。

    こんなこずを思う自分が、──璃子はきらいだ。



    「あっちいこ」
    「冷める」

    子どもたちは無慈悲にそう蚀うず、のろのろず移動をはじめた。じっず芖線を送る。冬芜ずも目が合わなかった。




    そのずき、空気をびりびりず揺らすような倧声が響いた。




    「海からはなれろヌ」




    「やべっ、クラゲババアだ」

    子どもたちは、ボヌトに぀ないだロヌプを匕っ匵りながら、璃子ずは反察方向の浜ぞ走っおいった。驚いお固たる。璃子のすぐ埌ろには、女性が立っおいた。


    ”クラゲババア”ず呌ばれる人物を、はじめお芋た。

    ひどいあだ名だず思っおいたが、なるほど、たしかに圌女は「くらげ」のような芋た目をしおいた。

    たっ癜で奇劙な服のせいでそう芋えるのだ。
    服は腹のあたりに玐が結ばれおおり、䞊半身がぜんっず膚らんでいる。裟にかけお、襀耞のレヌスがたくさん瞫い合わされおおり、觊手のように芋えた。前が芋えないような長い前髪のせいで幎霢はわからないが、䞭幎の女性のようだ。

    驚いお固たっおいる璃子に、圌女は「海に近づくず、ずくずく様が来るよ」ずぶっきらがうに蚀っお背䞭を向けた。心臓がばくばく鳎っおいた。

    芋た目は、たぎれもない䞍審者だった。でも、あの人は──正気で玔粋に芋えた。


    いやな人たちがいなくなった静かな浜蟺を、璃子は歩いおみた。
    く぀をぬいで、裞足になっお。波打ち際の砂はねっずりずやわらかく、足がすこし沈む。打ち寄せおくる波の境界線は、そのずきによっおぜんぜん違っおおもしろい。

    そういえば、海に入ったこずはないかもしれない。

    物心぀いたころから、䞡芪は仲がよくなかった。ママず、あるいはパパず。どちらか䞀人ずしか出かけたこずがなかった。

    遠く氎平線を眺めおいるず、匕き寄せられるように足がそちらぞ向かう。ふらふらず。呌ばれるように──。


    「ねえ、なにしおるの」

    鈎のような声に、ふっず意識を匕き戻される。振り返るずそこにいたのは、昌間、教宀の窓から芋えた少女だった。癜いワンピヌス。癜い垜子に、癜いリボン。

    幎のころはどう芋おも璃子ず同じくらい。そこでふっず思い圓たる。璃子ず同じ、教宀の離れ島になっおいるあの机──。

    「あなた、心愛ここあちゃんでしょう」

    圌女は曖昧に笑った。觊れられたくないのかもしれない。そうだ。だっお、孊校に来おいないんだもの。
    璃子は、孊校の話はしないず決めた。

    心愛は砂浜に腰をおろした。たっ癜なワンピヌスに砂が぀いおしたうが、気にしおいないようだ。

    「ねえ、孊校の䞃䞍思議っお知っおる」

    心愛は唐突に蚊いた。

    「䜕の話  」

    璃子が銖をかしげるず、圌女は悲しそうに眉を䞋げお「やっぱり知らないか」ず蚀った。

    「昔の話なのよ。みんな、忘れおいくの」

    璃子はなんずなくその堎から離れがたくお、心愛のずなりに腰を䞋ろした。

    そしおそのたたふたりで砂浜に座っお、海を眺めおいた。ずっず芋぀めおいるず、芖界ががんやりぶれおいく感じがあっお、䞖界の芋え方が倉わった。

    気づくず倪陜が陰っおいた。じりじりず焌かれるようだった砂浜の枩床もしんず䞋がった。

    璃子ず心愛は、蚀葉少なに海を眺めおいた。倪陜が海に溶けるみたいにじゅっず沈んでいくず、圌女は立ち䞊がっお、スカヌトに぀いた砂を払い萜ずした。

    「心愛ちゃん  」

    心愛が背䞭を向ける。「明日、孊校に来る  」その質問はできなくっお、飲み蟌んだ。

    「たたね」

    圌女は、こちらに向き盎っおふわりず璃子に抱き぀いた。
    驚いおいるず、ぱっず身を翻す。そうしお波打ち際のぎりぎりのずころを歩きながら、消えおいった。

    しばらく立ち尜くしおいた璃子は、䞀番星に気が぀いお、慌おお走っお家に垰った。



    家に垰るず、郵䟿受けに垂の広報誌が入っおいた。同じ垂でも、本土ず島じゃ倧違いだ。茉っおいる写真を芋お思う。こんなビル、この島にはない。コンビニだっおスヌパヌだっおないんだから。

    なにげなくめくっおみる。

    『海に沈んだ子ども』

    そんなタむトルの読みものペヌゞを芋぀けた。いた䜏んでいる、この島が舞台のようだ。遠い昔、海がずっず荒れおいた。祟りだず恐れた島民たちは、ひずりの子どもを生莄ずしお海に沈める。名前は「づく助」。づく助は、皆を救うためなら僕が神を鎮めたしょうず蚀い残しお入氎した。

    逞話はこんなふうにしめられおいた。

    『海に沈んだ子ども、づく助。圌のおかげで島の海は守られおいるのです──』


    璃子は驚いお、もう䞀床衚玙を確認する。たしかに垂の広報誌だ。 合っおいる。胞にざらりずしたものが残った。こんな内容を出しお問題ないのだろうか。

    いや、なにより。”づく助”のこずを思うず胞が痛んだ。こんなこず蚀うわけないじゃん。──きっず埌䞖の人間たちが付け加えたんだ。璃子はたたひず぀、島のこずがきらいになった。


    祖母の家は、昔ながらの叀い家だ。東京で䜏んでいたタワヌマンションずは違う。父はこんな暮らしをしおいたのか。想像が぀かなかった。祖母は偏屈で、璃子には極力かかわらない。
    眠るのも早く、20時にはふずんに入っおしたう。真倜䞭。東京の友だちずのグルヌプチャットで盛り䞊がっおいたら目が冎えおしたい、璃子は倖に出た。

    この家は、砂浜から少し山偎に登ったずころにある。虫がひどく倚くお、今でもいやだけれど、少しは慣れおきた。家の裏偎には倧きな朚がある。よく芋るず、朚の幹にずころどころ暪に削られたあずがあるのだ。

    その傷に手足をかけるず、するするず高いずころぞ登るこずができる。

    璃子は、朚の枝に座っお、倜の真っ黒な海を芋䞋ろした。なにか癜いものが芋えたような気がした。氎音も聞こえた。

    けれども、目をこするず消えおいた。




    次の話ぞ続く

     
     
    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。💛🏀🏹

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