
ゼリーの海と蜻蛉の島-----------7min
男木島へ行くのはきっかり一年ぶりだった。
示し合わせたわけじゃないのに。

すこし時間が空いたけれど、迷路のような路地裏が続く島の中をどう歩けばいいのかは頭のなかにしっかりと刻み込まれていた。それくらい、すべてに魅了されたからだと思う。
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瀬戸内海に浮かぶ小さな島・男木島は、猫とアートの島だ。
瀬戸内芸術祭で訪れてすっかり魅了され、去年は三回も足を運んだ。何度行っても新鮮な驚きと癒しと絶景がある。
高松港からたったの四十分の船旅で、日帰り旅行ができる。

しかもJR高松駅から徒歩数分で港に着く。船は二時間に一本。
時期によってはチケットを買うのに並ぶので、余裕をもって到着するのがおすすめ。
移動時間も含め、最短だとたったの3時間ちょっとで往復できる。
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坂道と階段、それから人がやっとすれ違えるような路地裏みたいな通路でできた町並みに一歩踏み出すと、まるで物語のなかに迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。

こういった道なので、車がなくても観光できるのもうれしい。
そして、島の至るところで猫に出会うことができる。

ねむっている猫、歩いている猫、隠れている猫。毛色も顔つきも個性もさまざまで、まるで宝探しをするように猫との出会いが楽しめる。
なお、島内では「ちゅーる」や「猫餌」も販売されており、それを持っていると猫たちが食べにきてくれる。
触られるのはちょっと苦手な子が多いので注意。



今回は、船旅含めて3時間半程度で回る場合のおすすめルートを紹介したいと思う。
それは行き先を3つに絞ること。
1.男木交流館

はじめに寄りたいのはここ。
島内にはお手洗いがほとんどないので必ず行っておきたい。
飲食店の開店時間が書かれたものや、給水スポットがある。マイボトルをセットすると無料で水が出てくるので便利。ペットボトルの場合はちょっとコツが必要で、センサー部分に手をかざして入れている方を見かけた。
この建物自体もアートなので、見ているだけでもときめく。

男木交流館は高松市の男木島の港にある、市民と男木島を訪れる人のための交流施設です。
ジャウメ・プレンサ氏が設計したこの建物は、瀬戸内国際芸術祭2010の芸術作品として建築されたもので、屋根に8つの言語が施され、晴れた日には地面に文字影が映る特徴があります。
館内には切符販売所等を備えており、現在も、島民や島を訪れた方々の憩いの場として利用されています。
2.歩く方舟
島に上陸してはっと目を惹かれるのは、ずどんと抜けるような大きな鳥居や、山肌を彩る町並み。


でも私はあえて、最初はそちらに行かない。
船から見て右側に進んでいき、細い路地を歩いてゆくと、島内の有名なアート作品「歩く方舟」にたどり着く。


徒歩だけでも往復20分以上かかってしまうので、できれば最初に行くのがおすすめ。また、ほんとうに合っているのか心配になるような路地を通ることになるので、ナビを入れると安心。
向かう途中で、猫のための「ちゅーる」も購入できる。

しばらく行くと、透明度の高い海が見えてくる。
ここにはシーグラスや綺麗な貝殻が落ちており、子どもたちはそれを拾うのに夢中になる。

運が良ければ猫にも出会える。

アートを堪能したらもと来た道を戻る。
途中で山のほうに向かってゆくと、男木島特有の、迷路のような坂上の町に入り込むことができる。ここからは自由に進んでいき、神社を目指す。



時間が許すなら迷っていい。迷うのがたのしい。
3.豊玉姫神社

山の上にある絶景の神社。
神主さんなどは常駐しておらず、御朱印やお守り、おみくじといったものはない。でもそれでも行く価値がある。
坂の上に位置する神社なのだけれど、さらに急勾配の階段を登っていく。ほんとうに急なので気をつけて。振り返って見ると、こんな絶景が広がっている。

木々に囲まれた静謐な空間。いくつか椅子も置かれており、3組程度なら休憩することができる。
そしてここは、猫スポットでもある。島内のどこで猫に会えるかは運だけど、これまで行ったなかで、ここにはいなかったことがない。


猫に癒されたら、ゆっくりと降りていく。まだ時間があればなにかを食べてもいいし、早めに港にもどってあたりを散策してもいい。





船が入港するすこし前に並んでおくと、帰りの40分の船旅で座れるのでぎりぎりにならないのが大事。

飲食店やアートなど、ほかにも魅力的なスポットはたくさんあるのだけれど、限られた時間のなかで回るならこのコースをおすすめしたい。
私はいつも高松港から出航して戻ってくるまでを3時間半としている。観光できるのは2時間足らずだから、こういった周り方になった。もう少し涼しい時期で、時間がたっぷりあるなら、島の反対方向にある灯台など、もっと足を伸ばしてみたいと思う。
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日傘をポン、とひらいた。先をゆく息子が振り返って口を尖らせる。夫が休みじゃないシルバーウィーク。私は同志であるママ友といっしょに、ふらっと男木島を訪れていた。
子どもたちは猫との邂逅をたのしみにしていたので「歩く方舟」までの短くはない道のりで猫に出会えなかったことに不満を持っていた。
「ママみて、なめらか」
「ゼリーみたい」

眼下に広がる海を指さして、息子が言った。
「ね、シーグラス探していいでしょ?」
一年前のことを思い出して娘が尋ねる。子どもたちはうれしそうに砂浜に降りて行った。
母ふたりは、日傘をさしたまま岩場に腰かけてそのようすを見ていた。
「あ、靴濡れた」
「波きてる……」
子どもたちは見つけた戦利品を誇らしげに持って来る。砂浜のシーグラス探しですこし機嫌がなおっただろうか、と思っていたら、空を見上げた。そこには見たことないくらいたくさんの蜻蛉が飛び回っている。
「てか、猫おらん」
「猫の島でしょ?」
「違うよ、とんぼの島だよ」
「とんぼの島だ!」
子どもたちはからからと笑って、またシーグラス探しにもどっていった。

なお、ガチャガチャで買った「ちゅーる」は、豊玉姫神社ですべてなくなった。
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息子はいつもより早くねむってしまった。
そのすこし前に、男木島の猫の話をした。
「いろんな手ざわりのねこがいた」
息子はいう。
「ざらざらのやつと、もふもふのやつと、すべすべのやつ」
「バロとは違うの?」
バロというのは、うちのおじいさん猫だ。島猫と比べるとすごく体が大きくて、そして、太い。
「バロと似た手ざわりのねこもいたよ。でも、ちがうのもいっぱいいた」

男木島は、猫とアートの島だ。
でも、それだけじゃないと思う。ただなにもしないで過ごしている時間の豊かさだとか、もっと言葉にならない、しなくてもいいものに出会える場所。
島に行くたびに、香川に移住してよかったと思う。
港にさえ着けば、たったの3時間半でショート・トリップができる。船に乗っている時間さえ愛おしい。何かを忘れたいとき、癒されたいとき、仲良しの人とお出かけしたいとき……。
これからもさまざまなタイミングできっと男木島を訪れると思う。