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【創作大賞2025 エッセイ部門】 エッセイ「トイレットペーパーと仲良くなる方法」

     物の声を聞く力を手に入れたとしたら、それは使いはじめのトイレットペーパーの向きを知ることに使いたい。なんだってあんなに向きを間違えるのか。こっちだよなと思って付け替えるのに、いざ引っ張ってみると逆向きでベリッと小さくちぎれる。
     そんなことで憤慨するほど器は小さくないから大丈夫、と言いたいところだが、意外とそんなこともない。あれは「実にイラッとするランキングトップ3」にランクインする。“地味に”じゃなくて“実に”というところが大事。
     ちなみにほか2つは、食器用洗剤にロックがかかったことに気づかずに洗剤が出てこないとき、洗濯が終わるときちんとネットに入れてたものが散乱されてるとき、だ。「あ、ごめんなさい〜、今日は散乱する日です!」くらい先に言っておいてくれたらいいのに。まあ、それはそれで、なんだよそれ!ってたぶん言うんだけど。

     最近はめっきり家で作業をすることが増えた。外に出るためにマスクをするのが億劫だからではない。単に家で仕事がしたいだけだ。うん、きっとそう。そんなわけでいまも窓辺に置いてあるデスクでこのエッセイを書いている。
     ここの窓からは少し遠くの方にある山と、目の前にある電線がよく見える。山を眺めていれば、季節の移ろいを感じられるし、電線を見ていればカラスやスズメが留まりにくるのが楽しめる。この景色は意外と飽きなくて良いものだ。おっと、決してカラスを見て楽しむなんて、と引かないでほしい。別に私だってカラスが好きなわけではない(好きな人、ごめんなさい)。
     学生の頃、登下校中に巣作りしている親カラスに頭を突かれたり、お花見中におにぎりを盗まれそうになって追い掛け回されたり、まあ、いろいろあるのだ。でも、窓辺から眺める分には問題ない。なんていったって、窓があるのだから。
     そうやって安心して外に目をやって休憩したりするのだが、もしこれが、突然窓がバリバリッと割れたりしたらどうだろう。そんなことになったら大惨事だ。

     まず割れた窓をなんとかしなきゃと窓修理の専門の人を探さなければならない。好きじゃない電話をかけることになるだろう。それに散らかったガラスの破片も片付けないといけない。ああ、足を怪我したくなければスリッパを履くことも忘れずに。そしてなんと言っても、外のカラスだ。彼らの目の前にある窓が割れたのだ。いつ部屋に入ってきてもおかしくない。そうなったらどうやって外へ連れ出そうか。部屋中にCDでもぶら下げる?いや、そんなものじゃ彼らは山へ帰ってはくれないだろう……。
     とこんなことを日々考えていたら、このエッセイに辿り着いたというわけだ。もしこれが物の声でも聞こえたら話は全く変わってくる。きっと窓が事前に「あと◯日後に割れます!」と教えてくれるだろう。そうすれば先に作業員を雇って新しい窓に張り替えておけばよい。これで私もカラスも安心というものだ。
     けれど、現実はそう甘くはない。スマホの通知や目覚ましが鳴らなくて困り果てたり、電車で通信が切れて爆音で鳴り出すワイヤレスイヤホンに翻弄されたり、急いでいる日に限って見当たらないお気に入りのリップに機嫌を損ねたり、何度直してもくるくると絡まるドライヤーのコンセントの反撃をくらい、突然水に変わるシャワーに驚かされ、いつまで経ってもお湯が出ないキッチンの水道に時間を奪われたりと、物とのエピソードを語ればキリがない。

     人間や動物にいろんな性格があって、それぞれがそれぞれに気分屋なように、きっと物にもそういう“今日の気分”とか“今のテンション”とかがあるのだろう。長く使っていればある日突然反抗期だって来るのかもしれない。
     こんなふうに最後は理解のあるいい人ぶって書いてみたけれど、うーん、やっぱりだめだ。列挙するごとに、先に教えてくれたっていいじゃないか!という気持ちが沸々と湧き出てきてしまう。
     こんなエッセイ書いてどうするんだ、と思っているでしょう。でもね、結局こんなもんなんです。外ではよく見せたくて八方美人だけど、実際はこんなちっちゃな器しか持ってません。もしかしたら、どんなに人間に乱暴に扱われたとしても文句一つ口にしない物のほうが、よっぽど器が大きいのかも。残念。
     ということで、今日も明日も明後日も、いつか物の声を聞く力を手に入れる日が来るのを願って、山を眺めながら一日を締めようと思います。明日は誰も反抗しませんように。

    (1,809字)
    #創作大賞2025 #エッセイ部門


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    小説家、もの書き。 仕事依頼:rino.ynt8128@gmail.com 長編小説「ブルー・ブライニクルの回想録」 短篇小説「果てしない冒険」「私の恋人」 「あるとき月が目にした話によると」ほか エッセイ集「感覚」 エッセイ「赤毛のアンのように、そして読書休暇を」 ほか

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