
このあと時間ある?~特殊性癖マッチングサイトの相手に連れていかれた思いもよらぬ場所~
わたしが登録した特殊性癖マッチングサイト、具体的にはBDSMをメインにしたマッチングサイトにはいろんな方がいます。
生成AI任せの文章が世の中にあふれかえるなか、自分の言葉で自分の性癖を開示している文章は大変興味深いものがあります。
そして読んでいるだけでは満足できず、やがて「いったいこのプロフィールを書いた人は、どんな人なんだろうか?」という好奇心がむくむくと顔をもたげてきます。
「ドミナント&サディスト」なのに「フェザータッチ」
その好奇心のままに会いに行った30代後半のゆうきさん(仮)は、ジムのストレッチエリアの鏡越しの自撮り写真をプロフィールに設定、職業はスポーツ関係とのことでした。
わたしが興味をそそられたのは、性癖について「苦痛」とかのハードなものはすべてNG、「束縛」のような依存関係もNG、好きな嗜好に「フェザータッチ」と書いてありながら、自身の性癖を「ドミナント/サディスト」と設定してあった点です。
「わたしの思い浮かべているドミナントやサディスト像とはだいぶ違うぞ?」という引っ掛かりを覚え、「ヤる、ヤらない」は別として本人にお目にかかって話を聞いてみたいと思ったのです。
もはや性欲無関係ですね。
個人情報をきっちり書いている人
あと、サイトのプロフィールは居住地設定が都道府県レベルまでしかできない仕様なので、自由記入欄に「東京の東部に住んでます」程度の補足情報を入れる人がいるなか、「最寄りは○○駅です」と細かなことまで書いている点も気になりました。
わたしは万が一にも知り合いが同じサイトに登録していたら怖いので、絶対に個人が特定できる情報は入れていませんし、顔写真も載せていません。
自分に紐づく情報をきっちり書き込んでいることからも人物像が気になりました。
性欲はまったく関係ありません。
何度かのメッセージやり取りをして、待ち合わせた場所は、ゆうきさんがプロフィールに書いていた駅でした。
周辺にラブホテルの類はありません。
ビッグロゴがあしらわれたジャージ姿(いいように解釈すると「90年代ふうスポーツカジュアル」)のゆうきさんに「ひとまずお茶でもしながら話そう」と言われ、わたしはドトールに連れていかれていました。
先に書いておくと、わたしはドトールが大好きです。
どれくらい好きかというと、コーヒーチェーンのなかで一番好きなくらいです(次に好きなのはベローチェ)。
けれども、特殊性癖マッチングサイト経由で出会って、これからセンシティブな話をする可能性が大いにあるってときに、小さなテーブルが隙間なく並んでいるような空間というのもちょっと考えものです。
周りにはコメダなど、ゆったりした作りのお店もあるのに。
はじめての人に会うのにジャージを選ぶセンスも、話せる場所としてドトールを選ぶセンスも、強烈新鮮でした。
わたしなんてその先の可能性も考えて、下着もなんとなく気合を入れてきたのに。
性欲と筋力マシマシの人
とりあえず最初は当たり障りのない話をと思い、プロフィールにジムの写真を設定していることについて言及したところ、これがよかったのかまずかったのか、ずっと筋トレや運動の話が続きました。
スポーツ推薦で入学したという大学エピソードに続き、「これ、大学の部活の後輩」とフォロワー数の多いインスタグラムのアカウントを見せてくれました。ゆうきさんではなく、あくまで後輩のアカウントです。
さらに「部活動の仲間で芸能関係に進んだ知り合いも多くて~」と「有名人の知り合い自慢」が続きます。
この手の話をする人がふだんのコミュニティではいないので、やっぱりこれも衝撃体験でした。
そのままわたしも自分の卒業した大学名を伝えたところ、親指と人差し指で丸を作りながら「もしかして実家、金持ち?」と聞かれました。
こうした一連の流れで思ったのは、「すごい!筋肉いっぱいで軽薄だ~」ということでした。
特殊性癖とか関係なく、日常では出会えないような人に会えること、話が聞けるのはマッチングサイトに登録してよかったことの一つでしょう。
結局、お店が混雑していたこともあり、センシティブな話はまったくできないまま退店。
本題については、周辺をぷらぷら歩きながら話すこととなりました。
「そういえば苦痛NGと書いてありましたけれど?」と問えば「俺、痛いのはするのもされるのも無理」との返答。
さらに深掘りしてみても、出てくる話はドミナント要素ともサディスト要素ともまったく結びつかず、「そうか、単に性欲強いだけの人なんだ!」と腹落ちするに至りました。
実際問題、特殊性癖マッチングサイトは「ヤる」が目的なので、性癖がどの方向を向いているか以前に、性欲がそれなりにある人が登録しているわけです。
となれば、そこまで性癖は特殊ではないけれども、性欲ギンギンの人も紛れ込んでいることだってあるのでしょう。
それがゆうきさんだったわけです。
そして「このあと時間ある?」に発展
性欲を持て余して、体力も目いっぱいありそうな筋肉の人がどんなプレイをするのか、ちょっと気になる。
「このあと時間ある?」
ナイスタイミングでゆうきさんが言いました。
心のなかで「お、きたぞ!」と思い、「全然ありますよ~」と返した結果、わたしたちは駅から電車に乗り込み、別のエリアへと移動し、ショッピングモールにたどり着いていました。
あれ?
「このあと時間ある?」は、「どうする?ヤる?」の隠語だと思われた方多いでしょう。
事実、わたしもそのように認識していました。
ところが「このあと時間ある?」「全然ありますよ~」のやり取りは以下のように続いたのです。
「○○(ショッピングモール)で今セールやっててトレーニングウェア買いたいんだよね。付き合ってくれない?」
ああでもないこうでもないとセールタグのついたウェアの試着を繰り返すゆうきさんをお店に放置し、「まさかここまで未知の体験になるとは……」と思いながら暮れ行く空を見上げて時間を過ごしました。
いい買い物ができたとほくほく顔のゆうきさんに、別れ際「きょう、一応いい下着選んできてました」と心の声が漏れてしまいました。
この遠回しの表現は、ゆうきさんに伝わったようで、申し訳なさそうに「実はきょう、ちょっと風邪気味で……」と弁解。
なんでか最後は「りよさんも、風邪ひかないように気を付けてね!」と笑顔で見送られました。