
【SF掌編】つばさ候補生⌇うたの輪
この町では、人間に翼が生える。
珍しいことではない。
10歳の子どもにも。
老人にも。
ある朝、突然背中から、白い翼が生える。
この町では、誰もが「つばさ候補生」
だった。
町には、翼のない人間もまだたくさんいる。
だから誰も、特別なことだとは思って
いない。
少女の家の窓からは、いつも同じ景色が
見える。
青い空。
緑の木々。
整備された道路。
白い建物。
穏やかな町並み。
空気は澄んでいて、人々は楽しそうに笑っている。
それが、この町の日常だった。
そしてある日、少女にも翼が生えた。
初めての飛行で、少女は町の上空まで
飛び上がった。
眼下には、いつもの穏やかな町。
その町をぐるりと囲うように、巨大な壁が
あった。
少女は、巨大な壁の前で翼を広げて、
壁の向こう側へ飛び越えた。
そこには。
ひび割れた大地。
崩れた建物。
枯れ果てた木々。
干上がった川。
人のいなくなった街。
空気は濁って灰色だった。
それでもなぜか、壁の内側にいたときよりも簡単に息ができた。
翼は力強く羽ばたいていた。
ふと周囲を見ると、少女と同じように飛んでいる者たちがいた。
外の世界には、翼のない者はひとりも
いなかった。
その頃。
壁の内側では、また新たな人間に翼が
生えていた。
実験は、今日も続いていた。

お題に参加させていただきました。
水守わをんさん、ありがとうございます。