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『シベリアのビートルズ』多田麻美

     著者の麻美さんは、ロシア人で大のビートルズファンである画家のスラバさんと結婚し、2018年からイルクーツクで暮らしています。イルクーツクはシベリア地方にあり、モンゴル国境から北へ約300kmほど、有名なバイカル湖があります。

     スラバさんは両親が離婚し、両親どちらもいなくなってしまったので、祖母と一緒に暮らしていました。小さなころから絵を描くことが大好きでした。旧ソ連時代に教育を受けていた世代なので、美術学校でも学んでいます。ビートルズを知ってからは、生活の中心がビートルズになりました。メンバーの似顔絵を描くことも多く、小学校5年生の時にはバッグにビートルズの絵を描いて市場で小遣い稼ぎをしていたそうです。

     スラバさんは、もちろんロック少年になりました。自分でバンドを組んだり、イベントを企画したり、海賊版のレコードを手に入れたり、友達から録音テープを借りたり、世界からの情報が閉ざされたソ連で、できる限りの情報を集めていました。

     ペレストロイカ以降、自由に音楽を聞いたり演奏したりできるようになったとはいえ、やはり、限られた範囲での自由でした。

     スラバさんの本業は画家です。でも、キャンバスや紙に描くような絵だけでは食べて行けません。映画館の看板を書く仕事をしたり、墓石の絵を描いたり(ロシアでは珍しくない仕事だそうです)、でも、音楽のことを一時も忘れたことはありません。


     麻美さんは日本人ですけど、親の仕事の都合で、小学生の時にはアメリカで暮らし、日本に戻って来てから、日本の文化にうまく合わせられずかなり苦労したようです。大学生の時に中国語とロシア語を学び、卒業後は中国で仕事をしていました。その後ロシアへ行くことになり、そこでビートルズの話題で意気投合したスラバさんと結婚したのです。


     先日、NHK で放映された『バタフライエフェクト「姿なきビートルズ 遠き世界を動かす」』に登場したコーリャ・ヴァシンとスラバは友人(もちろんビートルズがつないでくれた縁)で、スラバがモスクワへ行ったらコーリャの家に泊まり、コーリャがイルクーツクへ来たらスラバの家へ泊り、という仲だったそうです。

     ソ連の潜水艦の中で「Yellow Submarine」を歌ってたというエピソードも楽しかったな。

     ロシア人が酒好きだというのは、なんとなくイメージ通りですけど、その酒量が異常らしいのです。大酒を飲んで道端で寝てしまい、凍傷で鼻や指をなくす人がいたり、命を落とす人もかなり多いとか。ウォッカのアルコール度数が高いのが悪いのか、貧しくて夢がない生活が悪いのか、これはロシアにとって、放っておけない問題なのにと麻美は感じているようです。その影響でしょうか、スラバはお酒を飲まなくなりました。


     スラバと麻美が日本へ滞在し、ロシアへ戻るとき、ぼくらは「Back in the U.S.S.R.」だねってジョークを飛ばしていたのですが、どうもこれがジョークで済まない状況にロシアが変わってきているようなのです。ウクライナとの戦争のせいで、物価が上がり、友人の息子まで戦死するようになり、情報の統制も中国のようになってきて、「最近のロシアは、まるでソ連のようになってきている」という話で締めくくられました。

     日本にとってロシアは隣国でありながら、知らないことだらけの国なんだなと痛感する本でした。


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