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沈黙の共同体【風まかせ文芸部】

    ドテールコーヒーの横の噴水の前には、いつも人がいる。
    正確に言うと、いつも「人が群がっている」。あの細長いベンチに、見知らぬ他人同士が肩を寄せ合って黙って座っているのだ。

    最初は待ち合わせだと思った。だが誰も立ち上がらない。
    次に大道芸でもあるのかと思った。けれど芸人も観客の拍手もない。
    となると、あれは何だ。秘密結社の集会か、あるいは都市伝説的なパワースポットか。

    数週間、私はその謎を引きずった。

    そしてある日、私自身に事件が起きた。スマホの通信制限だ。
    地図は開けず、動画は固まり、SNSは干上がった川のように動かない。私は一瞬にして現代の遊牧民となり、Wi-Fiというオアシスを求めて街をさまよった。

    コンビニの前で立ち止まり、弱々しい電波をすする——が、すぐに途切れる。駅のベンチでも試す。が、ここも蜃気楼にすぎない。私は砂漠をさまようラクダのように、舌を垂らしてフリーWi-Fiを探し続けた。

    最後の望みをかけて、ドテールに駆け込む。アイスコーヒーを受け取り、席に着いた瞬間——スマホが生き返った。電波は満タン、動画は水のように流れ、SNSは洪水のように溢れ出す。私は点滴を打たれた病人のように、画面をむさぼった。

    しばらくして、ふと窓の外に目をやると、あの噴水前のベンチが目に入った。今日もやはり、ぎっしりと人が並んでいる。スーツ姿、学生、買い物袋を抱えた主婦。全員が俯き、スマホに没頭していた。会話はない。ただ、沈黙の共同体。

    私はハッとした。

    彼らは脈々と流れるWi-Fiの電波に、惹き寄せられていたのだ。

     
     
    東京生まれ、東京育ち。たくさん旅をして、いろんな世界を見たけれど、やっぱり日本が一番落ち着く。でも、胸の奥に、うまく名前のつけられないモヤモヤがたまってきたので、ここではそれを、そっとこぼしていきます。

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