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Photo byatsukamakun01

火玉が落ちる前に【風まかせ文芸部】

    線香花火の火玉が、今にも落ちそうに揺れている。
    私たちは無言でしゃがんで、手元に集中してた。

    「花火大会には行かないの?」って彼が聞く。
    「爆音、無理。小学校のとき行ったら鼓膜割れるかと思った」
    私はわざと軽く答えるけど、たぶん顔が引きつってる。

    彼は「そっか」と言って、二本目に火をつける。
    線香花火は不器用にパチ、パチ…と頼りなく言って、それでもちゃんと光ってる。

    私たちはあと半年で卒業する。
    来年の今頃、ここにいないのは確定してる。
    彼はたぶん九州かどっかの営業所。私はどこかの広報。
    “週末会える距離だといいね”って言ってる時点で、もう負けてる気がする。

    「さ、火玉落ちるよ」
    彼が言っても、私は見ない。落ちる瞬間が苦手。最後にチリ、と小さく鳴るのが、やけに胸にくるから。
    でも彼は、その落ちた火玉を見つめて「きれいだったね」と言った。

    風が吹いて、彼の髪が少し揺れた。
    そのとき不意に、あ、この人のことたぶんずっと忘れない、って思った。
    付き合ってるのに「忘れない」って未来形で思うの、もう結末が見えてるみたいでずるい。

    私は最後の一本に火をつけた。彼も同じタイミングで。
    パチ、…パチ……チリ。
    音は小さいけど、なんだか心に響く。
    むしろ、この静けさごと覚えておきたいと思った。
    それがたぶん、今年の夏いちばん心に響いた音だった。


     
     
    東京生まれ、東京育ち。たくさん旅をして、いろんな世界を見たけれど、やっぱり日本が一番落ち着く。でも、胸の奥に、うまく名前のつけられないモヤモヤがたまってきたので、ここではそれを、そっとこぼしていきます。

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