
第2章第3話 エルダリングポーカー:片面の真実
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道場に通い始めて数日。
ルールは同じNLHポーカーのはずなのに、何かが決定的に違う。
形式は同じ。2枚のホールカード、プリフロップ、フロップ、ターン、リバー──
それでもやはり何かが違っていた。
道場で最初に見たのは、熟練者たちによる、静かで淡々としたハンドの応酬だった。
TAG型を学んできた私にとって、それはどこか懐かしく、居心地のよい戦い方にも見えた。
「判断に根拠があれば、結果はどうあれ価値がある」
そんな空気が、ここには確かに流れていた。
──だが、私はまだ知らなかった。
この道場には、もう一つの「顔」があることを。
その日、タケルが声を上げた。
「よし、今日は久しぶりに“エルダリングスタイル”に戻ってやろうか!」
その一言で、場が少しざわつく。
いつものメンバーの中に、見慣れない少女が混じっていた。中学2年のミナちゃん。
はにかんだ笑顔で自己紹介をしたあと、彼女はぎこちなくチップ受け取り、卓の前に整えた。
「今日は、ポーカー自体が初めてのこの子に“導くポーカー”を体験してもらおうと思う」
タケルの提案に、誰もがうなずいた。
ルールは簡単だった。
配られた2枚のホールカードのうち、任意の1枚を最初から全員に公開する。
後は通常どおり、ポストフロップまで進めていく。
「完全情報」ではなく、「半情報」。
エルダリングポーカーの核ともいえる独自のスタイルだった。
正直、最初は戸惑った。
──たった1枚とはいえ、相手に情報を渡すなんて、ポーカーにおいては致命的だし……これじゃあまるでインディアンポーカーじゃないか。
私の中のTAG戦略が、警鐘を鳴らしていた。
だが、タケルはまるで迷わなかった。
フロップが開く前、彼はK♦を表向きにしてテーブルに置いた。
それを見て、対面のミナちゃんは目を見開いた。
「え?見せていいんですか、それ?」
「いいんだよ。これはエルダリングポーカーだから。こうやって君に、導く材料を渡すんだ」
彼女はしばらく考え込み、そして静かに自分のA♣を表にした。
「じゃあ、私も。……対等じゃなくても、怖くない気がします」
その瞬間、私の中で何かが変わった気がした。
「隠すこと」だけが、強さじゃない。
「見せることで信頼を渡す」ポーカーもあるのだと。
ミナはまだ、ハンドレンジもコンティニュエーションベットも知らない。
けれど、彼女のA♣には、どこかまっすぐな意思があった。
そして私も、初めて1枚を表にしてプレイした。
手元にあったのは、J♥と7♣。
少しだけ勇気を出して、J♥を表にした。
その瞬間、ミナがぱっと笑った。
「J、かっこいい!」
たったそれだけの一言が、なぜだかとても嬉しかった。
この場では、結果よりも過程が大切にされる。
ベットに至るまでの思考を言葉にし、負けてもその理由を共有できる。
子どもも、大人も、初心者も、ベテランも関係ない。
──これは、学び合いの場だ。
私のTAG型のプレイは、ここでは「慎重さ」ではなく「安心感」として受け入れられた。
「コージさんが入ってくれると、場が安定する」と言われたとき、不思議な気持ちになった。
ずっと自分の強さは「孤独」によって保たれていると思っていた。
けれど、ここでは相手を尊重し、また支える「強さ」がある。
ミナは何度か迷い、失敗もしながら、最後には自分の言葉でこう言った。
「さっき、私が降りてしまったのって、たぶん間違ってました。でも、次はもう少し自信を持って踏ん張ってみます。」
その言葉に、場の誰もが拍手を送った。
負けても、見せることで誰かの「糧」になる。
それが、片面の真実──エルダリングポーカーの精神だった。
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帰り際、ふとタケルが言った。
「TAGの技術はさ、実はこの道場でもすごく重宝されてるんだよ。やはりこの道場にもNLHポーカー経験者がある程度は必要だからな。
でもな、TAGは“完成形”じゃない。コージもここで、自分らしいスタイルを模索してみるといいと思うぜ」
その言葉はまるで今の自分を見透かされたような気がした。それでも——
相手を騙さなくていい、奪い合わなくてもいい、そんなポーカーがある。
そして私の慎重さが、やさしさになる。
それに安心感を覚えた、はじめての一日だった。
(第4話へつづく)
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