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待つ時間|シロクマ文芸部

    今週も参加させていただきます。


     今年度の目標「待つ」

     そう書いて更衣室の自分のロッカーに貼り付けた。
     ウチの会社、毎年目標を決めて貼らされるんだよね。

     ぐるりと見渡すとそれぞれに目標が貼ってある。
    ⚫︎丁寧な接客
    ⚫︎確認を忘れない
    ⚫︎笑顔

     なるほどな。


    「先輩!先輩の目標『待つ』ってすごいですね。ハッとさせられました」
     入社2年目の後輩が、目をキラキラさせてやってきた。
     いやお前が一番待ててないからな。この目標やるよって言いたくなった。


    「あの、◯◯さんって起床介助30分で終わります?絶対終わらないですよね?」
     後輩が相談とも愚痴ともつかない口調で話しかけてきた。
    「そう?私はちゃんと終わるよ、ギリギリだけどね」
    「どのくらい手伝ってます?結構こっちでちゃっちゃとやらないとダメですよね?」
    「いや……そんなやってないよ。動きやすいように準備してるだけ」
     ◯◯さんの起床介助では苦労してる人が多いようだった。
     確かに。着替えも洗顔もお化粧も。満足するまで待っていたら時間がどれだけあっても足りない。
    「待ってるんです。ちゃんと待ってたらいつも時間通りに行かないんですよ。だからもうね、手伝っちゃおうと思って」

    「待つってさ、その待つ時間に何をするか、なんだよね」
     後輩はあまり意味がわかっていないようだった。
    「待ってる間に記録を書こうとか、そういう話じゃないからね。時間の効率的な使い方を言いたいんじゃなくてさ。ちゃんとその人を見て待ってるかって話でね」
    「でも、それで時間が間に合いますか?」
     後輩は反発するというよりは、理解できないという顔をしていた。

    「さあ、間に合うかどうかはわからないけど。この人、次に何をやりたいかとかそういうのが分かれば、ある程度準備はしてあげられるじゃない。言ってみれば、オペ室のナースみたいなもん?」
    「あー、そう言われたら、わかりますけど……」
     わかるというのと納得するのとは違うようだった。

    「まあさ、そこまでやって時間が足りないなら、本当に足りないんだよ。時間配分の方がおかしいってことだよね」
    「先輩だからできるんじゃないのかな」
     後輩はそう言いながら、私のロッカーの「待つ」を手に取って見ていた。
    「その『待つ』あげるわ。私はこっちにする」
     そう言って『見る』と書いてロッカーに貼り直した。

     
     
    小説を書いています。 自分では純文学寄りだと思っていますが、ジャンルも長さもそのとき次第。

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