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満月を芋たら俺の䞭の狌が隒ぎ出したので、圌女に䌚いに行くこずにした│シロクマ文芞郚

    Every Moon Has a Hidden Side


    月を芋る。

    柄み切った倜空に、たるでそこだけ切り取られたみたいな満月が浮かんでいる。
    がんやり眺めおいるず、ふず「月䞋矎人」ずいう蚀葉が頭をよぎった。

    ——ああ、あの子にめちゃくちゃ圓おはたるじゃん。

    倜にしか咲かない可憐で儚い花。
    昌間に探そうずしたっおそこにはもういない感じが、なんずなく圌女の䜇たいず重なる。

    なんお颚にあの子のこずを考え始めたら、急に無性に䌚いたくなっおきた。

    䌚いたい、䌚いたい——いや、䌚いたいなんお生ぬるい感情じゃない。

    気持ちが膚らむに぀れお胞の奥から湧き䞊がっおきたのは、もっず生々しくおド盎球な欲望だ。
    芁するに、めちゃくちゃムラムラしおきた。

    「  月を芋るずムラムラするっおよく聞くけどさ、あれなんでなんだろうね」

    誰もいない倜道で思わず独り蚀が挏れる。
    䞀応理性が残っおいるアピヌルずしおどうでもいい疑問を口に出しおみたものの、䞋心の方は䞀向に収たっおくれない。
    どころか、どんどん熱を垯びおくる。

    そういえば「月を芋るず狌男になる」なんお話があったな。
    郜垂䌝説だかなんだか知らんが、今の俺ならその気持ちが痛いほど分かる。
    今倜の俺は完党に狌だ。
    圌女に䌚っお、理性が吹き飛ぶくらいめちゃくちゃにしおやりたい衝動で頭がいっぱいになっおいる。

    「よし、今すぐ䌚おう」

    決意が固たるのに䞀秒もかからなかった。


    圌女の家に向かっおずんずん歩き出す。
    ひんやりした倜颚を切りながら歩いおいるず、頭䞊にぎったり月が぀いおくるもんだから、なんだかやたらず思考の回転速床たで䞊がっおきた。
    頭の䞭で「月」にた぀わるキヌワヌドが次から次ぞず駆け巡り始める。

    「ずは蚀っおもさ、客芳的に芋たら俺ずあの子なんお  月ずすっぜんだよな」

    急に䞀人で自虐的になっおみたりもするが、いや埅およ、月は遠くお手が届かないからこそ綺麗なんだなんおお䞊品な蚀い蚳を思い぀き、盎埌に「でも今倜の俺は届きに行く気満々だけどな」ず䞀人でニダニダが止たらない。

    月ず蚀えば、りサギだ。

    かぐや姫やら逅぀きやら色々あるが、真っ先に浮かんだのはそんな颚流な話じゃない。
    そういえばりサギっお、性欲がめちゃくちゃ匷くお幎䞭発情しおるらしいじゃないか。

    「  おこずはさ もしかしお向こうだっお今倜、めちゃめちゃムラムラしおたりするんじゃないのか」

    郜合が良すぎる劄想が口を぀いお出た瞬間、脳内でアドレナリンがぶしゃっず出た。
    れロじゃない、むしろ倧ありだろそれ
    期埅で胞がはち切れそうになり、歩く速床が自然ずぐんぐん䞊がっおいく。

    月ず蚀えば、セヌラヌムヌンだ。

    なんでそこに蟿り着いたのか自分でも謎だが、りサギからの連想で「月野うさぎ」に行き着く。
    ふわっずしおいおどこか抜けおる癖に笑顔が最高に可愛いあの子は、たさに「月野うさぎ」じゃないか

    「ずいうこずはだ  今から駆け぀ける俺は、さながらタキシヌド仮面か」

    たた声に出おいた。
    倜道で䞀人タキシヌド仮面を名乗る成人男性ずいうダバさを頭の片隅で自芚し぀぀も、薔薇も持っおいない癖に「悪くない、むしろ俺今めちゃくちゃカッコいいぞ」ず本気で酔いしれ始めおいるのだから重症だ。

    勢いはもう止たらない。
    テンションが最高朮に達したずころで「月が綺麗ですね」ずいう倏目挱石の告癜フレヌズが頭に降っおきた。
    ロマンチックの極みだ。
    玄関のドアが開いた瞬間、月を背に受けおこれを蚀おう。
    完璧だ、完璧すぎるシミュレヌションだ

    煩悩ず劄想を限界たでパンパンに膚らたせた状態で、俺は぀いに圌女の家にたどり着いた。

    衚札を確認し、息を呑んでむンタヌホンに指をかける。

    「ピンポヌン」

      応答がない。

    焊っおもう䞀回抌す。

    「ピンポヌン」

      やっぱり、応答がない。
    郚屋の明かりも消えおいる。

    「  え、なんでいないんだよ」

    倜の䜏宅街に俺の叫びが虚しく響き枡った。
    近所迷惑ずかどうでもいい。
    だっお俺はあれだけ䞀人でテンションを䞊げお、りサギの性欲に興奮し、タキシヌド仮面になりきっお決めれリフたで甚意しおきたのだ。
    このやり堎のない熱量はどうすればいいんだ

    「    たあ」

    䞀目散に䞊がりきっおいた熱量が、サヌッず音を立おお冷めおいく。

    「アポなしで行ったんだから、そりゃいないか」

    俺は膝から厩れ萜ちそうになりながら、䞀人で虚しく玍埗するしかなかった。

    頭䞊では俺の悶絶なんお知ったこっちゃないずいう顔で、䞞く綺麗な満月がただただ茝いおいる。


    玄関前に立ったたたスマホを取り出し、LINEを開いた。

    『今日、どうしおも䌚いたいんだ』

    送信。

    文字にしおみるず想定以䞊に盎球で我ながら匕くが、たあいい。
    なんせ今倜は満月なのだから。

    すぐに既読が぀いお返信が届いた。

    『えっ来おくれたの⁉ うれしい🥹 でもごめん、今日どうしおも行かなきゃいけないずころあっお䌚えないんだよ〜😭』

    『え、たじで今すぐ近くにいるんだけど、ちょっずだけでも顔芋られない』

    『ごめんね、私もめっちゃ䌚いたいんだよ💊 今倜はどうしおも動けないけど  明日なら䌚える🫶』

    ——明日じゃ駄目なんだよ、今倜は満月だから

    そう返したかったが、こんなものを送ったずころでどうにもならないこずくらいは流石に分かる。
    「満月だから䌚いに来たした」なんお蚀い蚳、我ながら匱すぎるし完党に本物の狌男のセリフだ。

    『そっか、分かった。無理蚀っおごめんね、甚事頑匵っお』

    物分りの良い圌氏を装っお送信し、スマホをポケットに攟り蟌んだ。
    しんず静たり返った倜の䜏宅街に、自分の荒い息遣いだけが虚しく響いおいる。

    「くっそ〜  」

    思わず小声が挏れた。
    あい぀に䌚いたい。
    今倜に限っおこんなに䌚いたくおたたらないのに、なんで䌚えないんだ。
    倖せない甚事っお䞀䜓なんだよ、こんな深倜にどこで䜕をしおるんだ。

    ——埅およ、ワンチャンこの近くにいたりしないか

    諊めるずいう遞択肢は、俺の頭から綺麗さっぱり消え去っおいた。

    たず向かったのは、二人で初めおデヌトをしたお気に入りのカフェだ。
    倜遅くたで営業しおいお雰囲気が良くあい぀も倧奜きな店なので、「甚事の合間に立ち寄っおたりしないか」ずいう我ながら根拠の薄すぎる期埅を胞に芗きに行ったのだが、ガラス越しに芋えたのは怅子を䞊げお店内を片付けおいるスタッフの姿だった。
    ラストオヌダヌなんおずっくに終わっおいる。

    「  流石にこの時間はやっおないか」

    自分の甘い芋通しに苊笑いしながらその堎を離れた。

    次に向かったのは、い぀も二人で散歩しおいた近くの公園だ。
    「倜颚が気持ちいいから」ずよく蚀っお特に目的もなくぶらぶら歩いた思い出の堎所で、あの子が気に入っおいたベンチがある。
    「満月の倜だし、もしかしたらここで空を眺めおたりしお」なんお郜合のいい劄想を抱いお公園に滑り蟌んだものの、ベンチも広堎もひっそりず静たり返り、誰もいない。
    広倧な倜の公園の静けさが、ただただ俺の孀独感を際立たせおいた。

    「ここにもいないのかよ  䞀䜓どこ行っおるんだよ〜」

    䌚えないず分かれば分かるほど、䌚いたい気持ちだけが反比䟋しおどんどん膚れ䞊がっおいく。

    完党に打぀手なしずなったずき、ふず思い浮かんだ堎所があった。
    二人でよく飲みに行く隠れ家的なバヌだ。
    マスタヌはあい぀のこずも知っおいるから䜕か情報を掎んでいるかもしれないし、仮に䜕も知らなくおも、もはや䞀杯匕っ掛けないずやっおいられない気分だった。

    重い扉を開けお店内を䞀通り芋回すも、やはり圌女の姿はない。

    「いらっしゃい」

    マスタヌの萜ち着いた声を聞きながらカりンタヌ垭に滑り蟌み、少し考えおから泚文した。

    「ブルヌムヌン、ください」

    満月を意識したのが半分、やけくそになったのが半分だ。
    マスタヌは䜙蚈なこずを聞かず、静かにグラスを磚き始めた。

    やがお目の前に眮かれたカクテルは、深い青の䞭にうっすらず光が透けおいお息をのむほどきれいだった。

    「ブルヌムヌン  」

    グラスを持ち䞊げお呟く。
    「ブルヌムヌン」ずは本来ひず月に二床満月が巡っおくる珍しい倩䜓珟象を指す蚀葉で、そこから転じお「めったにないこず」「あり埗ないこず」ずいう意味を持っおいる。

    「今倜こんなにあの子に䌚えないのも、ある意味あり埗ないよな  」

    口に含むず、爜やかな甘みの埌にほんのり苊味が残った。

    「あれ、今倜は䞀人 圌女は」

    グラスを拭きながらマスタヌが声をかけおくる。

    「いや〜  月を芋おたら無性にあの子に䌚いたくなっちゃっお。LINEしたんですけど『倖せない甚事がある』っお断られちゃっお、カフェも公園も探しに行ったのにどこにもいないんですよね」

    我ながら情けない話だなず思いながら溢すず、マスタヌは「ああ」ず小さく声を挏らし、䜕かを思い出したように芖線を䞊ぞ向けた。

    「そういえば先週来おくれた時、あの子が蚀っおいたよ。『次の満月の倜には、絶察に海に行きたいんだよね』っおさ」

    「えっ」

    グラスを持ち䞊げたたた固たった。

    「う、海」

    「うん、海」

    「倜の海っお  なにしに行くの 倜の海なんお真っ暗で足元も芋えないし、すっごく危ないじゃん」

    「さあね、本人がそう蚀っおいたから」

    盞倉わらずあっさりしおいるマスタヌを前に、俺は残ったブルヌムヌンを䞀気に飲み干した。

    「  海に行くっお蚀っおたなら探しに行くわ 危ないし、䜕より俺が今倜あの子に䌚いたい」

    「ふっ、頑匵れよ」

    マスタヌの短い゚ヌルを背に受け、俺は勢いよく店を飛び出した。
    目的地は倜の海岞だ。
    頭䞊では、倉わらずあの満月が俺を照らしおいる。


    倜の海岞に着いた瞬間、思わず足が止たった。

    空には満月が笑えるくらい真ん䞞に茝いおいお、その光を受けた海面が銀色にざわめき、波が寄せるたびに砂浜の砂粒たでキラキラず反射しおいる。
    暗いはずの倜が、月光のせいで劙に明るい。

    「うわ  めちゃくちゃ綺麗だな  」

    思わず声が出た。
    これならあの子が来たくなるのもわかるし、だからこそ満月の倜に海に行きたがっおいたのかず玍埗した。
    バヌを出るたでは「倜の海なんお危ないだろ」ずしか思っおいなかったが、この神秘的な景色を芋せられたらぐうの音も出ない。

    ただ。

    「で、肝心のあの子はどこにいるんだ」

    綺麗すぎる景色に感心しおいる堎合ではなかった。
    砂浜を歩きながら呚囲を芋回すも人圱はなく、ただただ波の音だけが芏則正しく響いおいる。

    「目的地ずしおはここしか考えられないんだけどな  」

    銖をかしげながら波打ち際の方ぞ歩いおいくず、少し離れた先に䜕か倧きな圱があるのに気づいた。

    なんだあれ。

    近づいおいくに぀れおだんだんず茪郭が芋えおくるのだが、䞞くお、デカくお、なんか  甲矅みたいな圢をしおいる。

    「  え」

    思わず足が止たった。

    「デカっ 䜕あれりミガメ デカすぎだろ」

    人間ず同じくらいのサむズのりミガメが砂浜にどっしりず鎮座しおいた。
    こんなサむズのりミガメが実圚するのかどうかも知らないが、ずにかくデカい。
    倢かず思うくらいにデカい。

    あたりのスケヌルに匕き぀぀もなんずなく目を凝らしおみるず、その甲矅の䞊に䜕か垃のようなものが乗っかっおいるのが芋えた。

    「  ん」

    よく芋るず、それはカヌディガンだった。

    あの子のお気に入りの、い぀も矜織っおいるや぀だ。

    「  え なんであの亀、あの子のカヌディガン矜織っおんの」

    頭がたったく远い぀かない。
    萜ずし物か、それずもこのバカでかい亀にあの子が襲われたりしたのか

    「おい」

    気づいたずきには走っおいた。
    砂を蹎っおりミガメに駆け寄るず、りミガメが埌ろ足で砂を深く掘っおいるのが芋えた。
    䜕をしおいるのかず目を凝らすず、掘った穎の䞭に癜い䞞い物䜓がぜずり、ぜずりず萜ちおいく。

    卵だ。

    「おい」

    もう䞀床呌ぶず、りミガメがヌッずこちらを振り返った。

    その目から、倧粒の涙がボロボロずこがれ萜ちおいる。
    産卵の痛みなのか䜕なのかはわからないが、ずにかくボロボロ泣いおいるのだ。
    泣きながら卵を産み続ける巚倧なりミガメず、月明かりの砂浜で正面から向き合う男。
    状況の脈絡も意味も䞀切わからない。

    するずそのりミガメが、ゆっくりず口を開いた。

    「あ、朔君じゃん」

    あたりにも流暢な日本語だった。

    「  」

    「  」

    「えええええっ 喋った なになになに なんで俺の名前知っおんの」

    腰が抜けそうになりながら叫ぶず、りミガメは涙目のたた困ったような顔をした。

    「私だよ、私。汐里だよ」

    圌女の名前だった。
    声も、間違いなく圌女の声だった。

    「  は」

    「実はね」ずりミガメが蚀う。「私、満月の倜になるずりミガメになっちゃう䜓質なの、ごめんね。だから今日は䌚えないっお蚀ったんだ」

    「はぁぁぁ りミガメ なんで 満月で倉身っお普通は狌男ずかじゃないのか っおいうかこれ珟実か ファンタゞヌか䜕かか」

    「ファンタゞヌずかじゃなくお、本圓にりミガメになっちゃうの」

    りミガメ——圌女が蚀う。
    ポロポロず涙が砂に萜ちお滲んでいく。

    「で、りミガメだからさ  満月の倜になるず、こうやっおどうしおも産卵したくなっちゃうんだよね  」

    蚀いながら、ぜずり、ぜずりず穎の䞭に卵を産み続けおいる。倧泣きしながら。

    「今日はこんな姿だから䌚えないけど  明日には人間に戻るから、たた明日䌚おうよ」

    どこたでも健気な声だった。

    俺はしばらく、その非珟実的な光景を黙っお芋぀めおいた。
    月明かりの砂浜で、涙を流しながら卵を産み続ける巚倧なりミガメ。
    足元にどんどん積み䞊がっおいく癜い卵。
    そしお甲矅の䞊にちょこんず乗っかった、圌女のお気に入りのカヌディガン。

    胞の䞭で、今倜の出来事がゆっくりず巡っおいく。

    月を芋おムラムラし、月䞋矎人を連想した。
    狌男の気分になり、タキシヌド仮面を名乗った。
    バヌでブルヌムヌンを飲み、そしお倜の砂浜を駆け抜けた。

    その結果が、これだ。

    「  俺は今倜、満月の衝動でこの子ず゚ッチしたくおたたらなくなっお、必死こいおあちこち探したわっおたのに」

    静かに波の音が寄せおいる。

    「圓の本人は俺の知らんずころで勝手に䞀人で子䟛産んでんじゃねえかああああああああ」

    頭䞊では、盞倉わらず満月が笑えるくらい真ん䞞に茝いおいた。




    ●シロクマ文芞郚 お題月を芋る参加䜜品


    ●おたけ 「Fly Me to the Moon/Julie London」


    ●サバチヌ 創䜜たずめ
    劄想ず虚構の掃き溜め短線小説・創䜜

    ●共同運営マガゞン ノラマガ
    珟圚絶賛メンバヌ募集䞭


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