
『ブルーカラー』〜未熟を切り落とす音… シロクマ文芸部〜葉の色が…
「ダイゴッ、今木下さんから連絡が入ったぞッ。」
「えっ、何ですか?」
「家の壁代わりのモミの木の葉が枯れているそうだ。何か心当たりないのか」
今、僕の施工している現場は、町の小さい路地での下水道管工事だ。ユンボで穴を掘り、管を埋めて帰る仕事。
「何なんだよ、親方。いきなり怒鳴って…」
朝の事務所で、僕は息を呑んだ。
いつも泥にまみれている親方が、見たこともないスーツに身を包み、不器用にネクタイを締めていたのだ。木下さんの家に到着し、示された場所を見つめる。
青々としたモミの木の葉が、そこだけ横一列に、無残な茶色に変色していた。
「申し訳ありません。うちで直ぐにやり返させてください」
親方は、手に持った
菓子箱を差し出し頭を下げた。
僕は咄嗟に言い訳を考えた。
「僕じゃ……」
制した親方の手で、言葉が詰まった。
「ダイゴ、これはな、ユンボのマフラーから出る排気ガスで葉っぱが枯れてるんだ」
僕は、そこで、やっと気づいた。
昨日掘削している時に、エンジンを掛けたまま止まっていた場面を思い出した。
現場の準備をしようと集まる作業員を、親方は集めた。
「いいか、俺たちは、町の人達の払った税金で飯を食ってるんだ。この道路も側溝も近くに住む町の人の私物と一緒なんだ。」
「昨日は、少しトラブって、少し時間を慌てたので」
「それは、言い訳にならない。このガタガタの舗装の仮復旧、中途半端な掃除のままの道路。人がコケて、ケガしたらどうするんだ」
「ダイゴ、施工を管理するって事はな、細心の注意を払い、周辺の住民が納得する形で返さなければいけない。利益なんかは後回しだ。喜んでもらえる仕事を返そう」
その日の作業は、もう一度、今までした箇所の清掃と、枯れた葉っぱの除去作業。荒れた舗装もやり直した。昨日の失敗を綺麗に洗い流した。
「そこに通ったのは車椅子を押す女の人、道が綺麗になって通りやすくなりました。ありがとう」
と声をかけられた。
早く終わらせることばかり考えていた。その焦りが、現場の細部への配慮を曇らせていたのだと、自分の未熟さが恥ずかしくなった。
その夜、家に帰って観葉植物を霧吹きで癒す。ふと気づいた。アンスリウムの葉の半分が茶色く変色している。
「忙しさに感けて、水をやるのを忘れていた。ごめんな…」
僕は小さく呟き、枯れてしまった葉にハサミの刃をあてた。――パチン。静かな部屋に、自分の未熟さを切り落とすような音が、低く響いた。