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アンチョビも書けと天啓を受けた気がするので。

    イワシ

    鰯。
    魚へんに弱い。

    水から揚げるとすぐ弱るから、らしい。
    なるほどね。
    命名会議に参加したかった。

    「弱いですね」
    「弱いですな」
    「では、鰯で」

    満場一致。
    おい。もうちょっと考えろ。

    しかもイワシは群れで泳ぐ。
    一匹では弱くても、仲間と生き延びる。
    立派じゃないか。私は好きだぞ。

    などと柄にもなく感動していたのだが。

    人間。
    お前だ。

    網で獲る。船に揚げる。スーパーに並べる。
    安い。ありがたい。主婦の味方。
    山田は値引きシールを探している。

    さっきまで尊厳を語っていた人間と同一人物とは思えない。
    だが、これが人間だ。

    さて。本題はここからである。

    アンチョビ。

    聞いただけでおしゃれ。
    オリーブオイル。ニンニク。バル。ワイン。
    急に人生が華やいだ。

    イワシ、お前、いつの間に。

    材料は主にカタクチイワシ。
    塩漬けにされ、熟成され、うま味を引き出される。
    だが、イワシである。

    塩焼きは庶民。アンチョビはおしゃれ。
    同じ魚である。なんなら手間はアンチョビのほうがかかっている。
    肩書きが変わると急に偉くなるのは、魚も人間も同じらしい。

    出世である。
    魚類の立身出世物語。めでたい。

    ……待て。

    アンチョビチューブ。

    お前は何だ。

    絞るのである。歯磨き粉のように。ぎゅっと。

    海で生まれ、群れをつくり、捕まり、塩漬けにされ、熟成され、最後はチューブ。
    人間の都合で、必要な分だけ絞り出される。

    お前の人生、それでいいのか。

    いいのだろう。おいしいから。

    パスタに入れる。炒め物に入れる。ドレッシングに入れる。
    気づけば隠し味のあちこちにいる。
    もはや偏在。

    そして、バーニャカウダである。

    ニンニクとアンチョビを、オリーブオイルでぐつぐつ温める。
    そこに野菜をつける。

    「野菜をたくさん食べました」

    嘘をつけ。

    食べたのはソースだろ。
    野菜は運搬係である。
    人参もブロッコリーもパプリカも、イワシを口に届けるための乗り物にすぎない。

    ちなみにバーニャカウダは、イタリア語で「熱いソース」という意味らしい。
    熱い。
    火にかけられ、油に沈み、ニンニクと一緒にぐつぐつされるイワシ。

    お前の魚生、最後まで大変だな。

    しかも、うまい。
    ワインが進む。
    野菜もなくなる。ソースだけが残る。
    山田はパンでソースを拭う。
    イワシの最後の一滴まで、きれいにいただく。

    さっきまで何を言っていた。
    イワシの尊厳はどうした。

    山田はチューブを冷蔵庫に常備しようとしている。

    人間とは、実に身勝手な生き物である。
    いや、訂正しよう。
    食欲に忠実な生き物である。

    すまんな、イワシ。

    来世では、魚へんに強い字をもらってほしい。
    そんな漢字があるかは知らない。なければ人間が作る。

    ただし。
    来世でもおいしかったら、また食べる。



    ポップちゃん、サムネありがとうねぇ。
    ほら、5作目だよ、おあがんなさい。

     
     
    理想の夫と、この世で一番可愛い姉妹ちゃんと関東の片隅で暮らす主婦。物臭な飲んだくれの元看護師。お見合いで出会い、5ヶ月で結婚しました。婚活、無痛分娩、子育て、株、旅行。調べるのは好き。最後は直感。 Amazonのアソシエイトとして、山田、最後は勘。は適格販売により収入を得ています

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