
さらにイワシを書けと天啓を受けた気がするので。
✍️ 約800文字・読了目安2分
イワシは、海に生まれる。
広い海。
青い水。
仲間たちと泳ぎ、餌を食べ、すくすくと育つ。
ときには大きな魚に追われ、ときには人間に追われる。
厳しい自然界。
弱肉強食の世界。
それでもイワシは生きていく。
群れを作り、身を寄せ合い、今日を生きる。
やがて、イワシは捕まる。
網にすくい上げられ、海から引き離される。
ここで人生が一変する。
いや、魚生か。
水揚げされたイワシは、選別される。
めざしになる者。
塩焼きになる者。
刺身になる者。
梅煮になる者。
そして、缶詰になる者。
運命は分かれる。
しかし、どの道を選ぼうとも、本人の意思は反映されない。
厳しい。
あまりにも厳しい。
缶詰になったイワシは、油や調味液とともに密閉される。
加熱殺菌され、長期保存が可能になる。
いつか、誰かが食べてくれる。
いつか。
いつか。
……。
それから数か月。
とある家庭の台所。
主婦、山田。
夕飯の支度をしようと、戸棚を開ける。
「あっ」
缶詰を見つけた。
イワシの缶詰。
いつ買ったのだろう。
覚えていない。
賞味期限を確認する。
まだ大丈夫だ。
よかった。
山田は缶詰を戸棚に戻した。
おい。
待て。
待ってくれ。
イワシは今日まで、暗闇の中で待っていたのだ。
いつか誰かに食べてもらえる日を。
そのために、加工され、密閉され、保存されてきたのだ。
それなのに。
「今日はいいや」
山田。
お前。
そのイワシにも、魚生があったのだぞ。
梅煮にも、トマト煮にもなれたはずなのに。
海を泳いだ日々が。
仲間と過ごした時間が。
広い世界を駆け巡った記憶が。
あったかどうかは知らないが。
こうしてイワシは、再び暗闇へと戻っていった。
次に戸棚が開くのは、いつの日か。
その日まで。
さらば、イワシ。
君のことは、たぶん忘れない。
ポップちゃんに描いてもらったサムネです。
そろそろ生臭さを感じてきたかい?