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「大学は非能率的」「基本書だけでは受からない」――会社法を立案した葉玉匡美弁護士23歳当時の合格体験記

    2005年の会社法の立案を法務省で担当し、現在はTMI総合法律事務所のパートナーを務める葉玉匡美弁護士が、司法試験に合格した直後に合格体験記を書いていたことが分かった。

    掲載されているのは、エール出版社が毎年刊行していた受験生向けの体験手記集『私の司法試験現役合格作戦』の1989年版(1989年2月刊)である。「東京大学」の見出しのもと、114〜124頁の11頁にわたって、当時23歳の葉玉氏が自らの勉強法を語っている。

    会社法の条文をつくった当事者が、法律家としての出発点で何を考え、どう学んでいたのか。体験記は、その一端を本人の言葉で伝えている。

    1. 体験記の概要

    ■書誌

    • 書名:『私の司法試験現役合格作戦』1989年版(エール出版社編、エール出版社、1989年2月)

    • 掲載箇所:第3章「泣いても笑ってもこの一年,決意はパワーを2倍生む」、114〜124頁

    • 表題:「『今年はだめだ。来年に賭けよう』では一生受からない」

    • 筆者の表記:葉玉匡美(東京大学)、受験2回(23歳)

    ■内容の柱
    葉玉氏は、合格できない人には「気持ちか、方法論か、実行力か」のどれかが足りないとし(115頁)、この三つの視点から自らの「合格作戦」を述べている。

    体験記によると、葉玉氏が司法試験の勉強を本格的に始めたのは、大学4年の短答式(択一)試験に落ちた直後だった。そこから「実質一年で合格した」と書いている(114頁)。

    2. 「大学は非能率的」――予備校と答練が中心

    体験記で目を引くのは、大学の授業や学者の基本書よりも、受験予備校を中心に据えた勉強法である。

    葉玉氏は、大学の講義を当てにしなかったと書き、「個人的には、大学は司法試験のための教育機関としては、非能率的だと思う」と述べている(116頁)。代わりに勉強の幹にしたのは、LEC東京リーガルマインドの講座だった。

    とりわけ重視したのが、答案を書いて採点を受ける**答案練習会(答練)**である。「答練は大事である。合格のためには、講義なんかよりずっと大事である」とし(118頁)、LECや早稲田セミナーの答練を「人が笑うほどうけた」という(117〜118頁)。

    基本書については、「基本書だけでは受からない。また、基本書を読まなくても十分受かる」と書いている(118頁)。基本書は量が膨大で、試験にとってどこが重要かが分かりにくいというのが理由だ。もっとも、自身も30〜40冊には目を通したとしている(121頁)。

    3. 会社法の教科書は「試験向きではない」

    のちに会社法をつくる立場になる葉玉氏が、23歳の時点で会社法の教科書をどう見ていたか。体験記には、科目ごとの参考書の感想も並んでいる。

    商法の項では、当時の代表的な教科書である鈴木竹雄『会社法』について「他人がいうほど、試験に向いた本とは思わない」と書いた。河本一郎氏の本については「現在の会社の実態がわかり、興味ぶかいが、試験向きではない」としている(120頁)。会社法でのおすすめとして挙げたのは、受験参考書だった。

    さらに、勉強の効率という点から、商法などの科目に特に力を注ぐことを勧めている。理由の一つとして、「みんなあまり勉強してないのですぐに合格点がつきやすく、しかも高い得点がねらえる」ことを挙げ、「商法以下の科目ができない人は受からない」と書いている(122頁)。

    4. 合格後は「予備校講師」に

    体験記の後日談は、別の資料からたどることができる。

    葉玉氏は合格後、LECで講師を務めた。同じエール出版社の『私の司法試験現役合格作戦』1992年版には、早稲田大学の合格者が、LECの入門講座で「葉玉匡美専任講師」から司法試験の何たるかを教わったと書いている。この合格者は、友人と組んだゼミを葉玉講師に見てもらい、それが「葉玉ゼミ」の始まりだったとしている(114〜127頁)。

    その後の経歴は、公開されているプロフィールによると次のとおりだ。

    • 1991年:司法研修所に入所

    • 1993年:検事に任官

    • 法務省民事局付検事として、会社法や社債等振替法の立案を担当。東京地検特捜部でも勤務

    • 2007年:弁護士登録(第一東京弁護士会)、TMI総合法律事務所にパートナーとして参加

    • 2008〜2018年:上智大学大学院法学研究科の教授

    2005年の会社法の成立後には、立案担当者の有志でつくる「会社法立案担当者の会」の代表として、解説書『新・会社法100問』(ダイヤモンド社)を編んでいる。

    5. 体験記が映すもの

    体験記には、のちの経歴と照らすと興味深い記述がいくつかある。大学を「非能率的」と書いた筆者は、のちに大学院の教授を務めた。会社法の教科書を「試験向きではない」と評した受験生は、十数年後、その会社法をつくり、解説する側に回った。

    体験記の冒頭近くで、葉玉氏は受験生にこう呼びかけている。法曹として無能な者が裁判官や検事、弁護士になっても、「それは社会の迷惑でしかない」(115〜116頁)。法律家の能力と責任を重く見るこの言葉は、会社法という、日本の企業社会の基本法をつくった法律家の出発点として、記録に値する。

    まとめ

    • 会社法の立案を担当した葉玉匡美弁護士が、司法試験合格直後の1989年、エール出版社『私の司法試験現役合格作戦』に合格体験記を寄せていた

    • 体験記では、大学の講義や基本書よりも予備校の講座と答練を中心に据えた勉強法を語っている

    • 会社法の教科書については「試験向きではない」と評し、商法は「みんなあまり勉強してない」から得点源になると勧めていた

    • 合格後はLECの専任講師として「葉玉ゼミ」を指導し、検事、法務省民事局付を経て会社法の立案を担当した

    • 体験記は、日本の会社法をつくった法律家の出発点を、本人の言葉で伝える資料である


    主な出典

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