
秋への温度丨風まかせ文芸部
夏の夕空は青と紫のグラデーションが綺麗で、見送るのが切なくなった。
だけど、9月も後半になると暮れていくオレンジ色の空に目を奪われて、目に入るトンボにまた一つ切なくなった。
季節の移り変わりには、どうしてこうも後ろ髪を引かれるのだろう。
昼間は暑いのに、朝夕は涼しい。
酷暑の中、もう夏なんてまっぴらだと思うのに、秋を迎える頃には夏を振り返る。
それは年末、年を跨ぐ時に覚える焦りにも似ているかもしれない。
夏の湿気った匂いが、金木犀の甘い匂いになる。
手にする冷たいお茶が、紙コップの温かいコーヒーになる。
沸かすお風呂の温度が一度ずつ上がる。
薄手のカーディガンを羽織った。
「……お帰り」
久しぶりに出したカーディガンに言ったのかもしれない。
巡りくる秋に言ったのかもしれない。
隣の部屋では、ガタゴトと何かを動かしている。
模様替えだろうか。
「……秋深き隣は何をする人ぞ」
少し口元が緩む。
手にした本へ目を移す。
暮れていく空は夜を迎えて、虫が歌い出した。
お読みいただいて、ありがとうございました。
本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。