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面取りって、なんで?——グエンさんと、かぼちゃの煮物

    ※このnoteは、沼津でスーパーの惣菜を作る53歳・久住早苗という架空の人物の目線で書いた創作エッセイです。登場する人物・お店・エピソードはすべて創作です。



    こんにちは。久住早苗です。

    沼津は、朝晩がずいぶん涼しくなりました。
    犬の散歩に、薄いカーディガンを1枚はおるようになりました。

    前の記事を出したあと、しばらくスマホを伏せて置いていました。
    そっと開いたら、ハートがついていて。
    知らない方が読んでくださったんだなぁと、しばらく画面を眺めていました。
    ありがとうございます。

    今日は、職場の話を書いてみます。
    スマホで書いているので、読みにくかったらごめんなさい。

    「どうして角を取るの?」

    その日は、朝からかぼちゃの煮物の仕込みでした。

    かぼちゃを切って、切り口の角を包丁で薄くそぎ落としていきます。
    「面取り」っていうんですよね。

    となりで手伝ってくれていたのが、グエンさんです。
    ベトナム出身の24歳で、去年から惣菜の仕込みに入っている後輩です。

    グエンさんが、手を止めて聞きました。

    「くすみさん、どうして角を取るの?」

    「煮くずれしないようにね」

    そう答えたら、グエンさんはエプロンのポケットから小さなメモ帳を出して、何か描きはじめました。
    のぞいてみると、四角いかぼちゃと、角の取れたかぼちゃ。
    そのあいだに、矢印が1本。

    27年、理由を考えずにやっていた

    正直に言うと、そのとき少しどきっとしたんです。

    面取りは、27年、ほとんど毎日のようにやってきました。
    でも、「なんで?」と考えたことは、あまりなかったんですよね。
    気づいたら、手が先に動いている。
    そういう仕事のひとつでした。

    帰りの車で、エンジンをかける前に少しだけ座って、考えてみました。

    かぼちゃの角は、とがっていて薄いです。
    鍋の中で煮汁が動くと、かぼちゃ同士がぶつかって、角から崩れやすい。
    崩れたかけらが煮汁に溶けると、汁がにごって、見た目もぼんやりしてしまいます。
    角を先に落としておくと、形が残りやすくなるんです。

    それから、私がいた売り場では、かぼちゃの皮をところどころむいていました。
    かたい皮のところにも、味がしみやすいように。
    緑と黄色のまだらになって、パックに並べたときにきれいに見える、というのもあります。

    パックの中のかぼちゃの角が丸いのは、誰かが朝、一つずつ削ったからなんです。
    …なんて、作る側としては、ちょっと言ってみたくなりました😅

    「仲良くなるの」

    グエンさんに煮物を教えるのは、これが初めてではありません。

    前に、「味がしみる」がなかなか伝わらなかったことがありました。
    しみる、しみこむ、と言い方を変えても、首をかしげている。
    困って、「一晩寝かせると、仲良くなるの」と言ったら、ぱっと顔が明るくなりました。
    (煮物を一晩おくときは、粗熱をとってから冷蔵庫に入れています)

    グエンさんは、分からないことを、その場で聞きます。
    メモを取って、次に会うときには、もう手が覚えている。

    私は27年で、何回「なんで?」と聞いただろう。
    包丁を持ったまま、少し考えてしまいました。

    家の鍋では

    その日は、売り場に出せない形の悪い切れ端を、少し分けてもらって帰りました。

    家では、正直に言うと、面取りをしない日のほうが多いです。
    売り場では一つ残らず角を落とすのに、家の鍋ではそのまま(笑)
    2人分だと、少しくらい崩れても、困る人がいないんですよね。

    その晩の夕飯は、鯵の開きと、かぼちゃの煮物と、大根の味噌汁。
    大根は、お隣の佐野さんが畑で採ったのをくれたものです。
    主人は、角のあるかぼちゃも、崩れたかぼちゃも、黙って全部食べていました。

    面取りで出たかけらも、捨てずに味噌汁に入れてしまうことがあります。
    もったいないので。
    これは、たぶん母ゆずりです。

    介護をしていたころ、母は、私が家で煮たかぼちゃより、売り場のかぼちゃの煮物のほうをよく食べました。
    角の丸いほうを、です。

    おわりに

    後日、グエンさんのメモ帳を見せてもらいました。
    丸いかぼちゃの絵の横に、ベトナム語と、ひらがなで「にくずれしない」と書いてありました。

    私も、自分の手帳に書いておこうかなと思います。
    27年分の「なんで?」を、少しずつ。

    あなたの台所にも、理由は分からないけれど、なんとなく続けていることってありませんか。
    もしあったら、こっそり教えてもらえるとうれしいです。

    こむぎは今日も、いつもの角で引き返しました🐕

    今日の夕飯が、少しでもラクになりますように🍀

     
     
    沼津の惣菜売り場で27年働く、架空の人物・久住早苗の創作エッセイです。母が亡くなり、子どもたちも家を出て、今は主人と二人暮らし。売り場での出来事や、まだ二人分に慣れない夕飯を書いています。登場人物と出来事は創作です。

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