メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byinagakijunya

おとしもの5「おとしの山ちゃん」 #チャレがや企画


    画像

    「おとしもの」


    警視庁捜査一課には伝説の刑事が居た。
     山田健一警部補 五十八歳。
    通称「おとしの山ちゃん」。
    どんな鉄壁の容疑者も山田健一警部補の取調室から出てくる時は、泣きながら自白をしていた。

    「昨日の晩、何食べた?」
    「カツ丼です」
    「美味かったか?」
    「はい」
    「田舎の母ちゃん、泣いてるぞ」
    「⋯⋯」
    「じゃあ、正直に話そうか」
    「申し訳ありませんでしたぁ!」
    三十分。最短記録更新である。

     警察学校、所謂『教場』では「おとしの技術」として語り継がれ、若い警察官たちからは「神様」を見るように拝み奉られていた。
    ーーだが
    或る日、若い刑事が台車を押して、山田警部補の元へ飛び込んで来た。
    「山ちゃん、大変です!」
    「何だ?」
    「駅前交番に、この大量のおとしものが」
    「よし! 俺に任せろ」
    「えっ?」
    「おとすのは得意だ」
    「いえ、今回は既におとされています」
    「なるほど」
    山ちゃんは腕を組んだ。
    「内容を言ってみろ」
    「はい! 財布が二十五点、スマホが四十一点、傘が百三十二本⋯⋯」
    「普通だな。殺人事件の匂いはしないぞ」
    「続けます。カツラ三個」
    「カツラ?何を隠してたんだろう」
    「ハゲじゃないですかね。続けます。入れ歯五組」
    「入れ歯を落としたのか。口が固そうだな」
    「入れ歯は話せません。続けます。義足一本」
    「義足おとして、どうやって殺人現場から逃げたんだ」
    「匂ってきましたね」
    「ああ、このヤマは俺に任せろ。吐かせて、おとしてみせるぜ」
    「だから山ちゃん、もう既におとしています。続けます。金魚三匹」
    「水槽ごとか?」
    「いいえ、ビニール袋です」
    「あとで鑑識に指紋とってもらえよ」
    「金魚は魚拓じゃないですか? 続けます。ヘビ一匹」
    「毒は持ってるのか」
    「ヘビは話せません。続けます。棺桶一個」
    「単位が違う。棺桶は一基だ。仏さんは?」
    「空です」
    「良かった」
    「中から警察手帳が出て来ました」
    「警察手帳? 犯人のものだろうが。誰のだよ?」
    「それが⋯⋯山田警部補本人の物であります!」
    「⋯⋯」
    「それでお届けにあがった次第です」
    「ご苦労さん」
    「続けます」
    「まだあるのか?」
    「老眼鏡、補聴器、痔の薬⋯⋯」
    「もういい。ヤメロ」
    山ちゃんは寂しそうに笑った。
    「俺もヤキが回ったもんだ」
    「大丈夫であります。山田警部補は変わらず『おとしの山ちゃん』ですから」
    「そっちかよ」
    若い刑事は敬礼をして部屋を出て行こうとした。ドアを閉める瞬間だった。顔だけをのぞかせて
    「あ、山ちゃん」
    「何だ」
    「入れ歯お忘れです」
    バタン。




    (了)


    すみませんm(__)m
    これも拾ってもらえますか?(笑)よろしくお願いします。

     
     

    sanngo

     
     
    最愛の夫を亡くして7年。植物人間だった夫の介護をして7年半。その間に、沢山の人々に助けられました。だから、私に逢う全ての人々を大切に。 「ありがとう」の感謝の心で生きていきたいです。 でも書く物はミステリーが多いです(笑)

    あなたへのおすすめ