
「曖昧模糊」藤本 柊さん著【読書感想文】

「桜の予感」
一頁目を開いた瞬間から、呼吸する速度に合わせるように、物語が、ふんわりと私の中に沁みていく。この不思議な感覚をなんと表現したらいいのだろう?
がむしゃらに引き込まれるのではなく、そっと見守っていたい……そんな感覚に囚われていく。
「ねぇ、昨日、何食べたっけ?」
と聞くように
「今、恋してる?」
と、物語がそっと私に問いかけてくる。
これが、藤本 柊さんの世界なんだと、あの暑い大阪の日に爽やかな笑顔をふりまいていた人を思い出した。
この二人、そのまま走ってしまえばいいのに、そんなもどかしさまでを美しく感じさせる作品。
読み終わったあとに、目には満開の桜が映るような、耳にはバスケットボールが弾む音が聞こえてくるような余韻を感じた。
「1℃のあいだ」
外では、しとしとと雨が降っている。部屋の中には、恋人とよく眠っている一匹の猫。
『変化に弱い君』のはずなのに、1℃のあいだの中で、二人セルシウスをあげる。
まるで一遍の詩を読んでいるような、それこそ、そっと寄り添っていたいような物語。
バンザイをした後は……。ね?(笑)
「中谷のたとえ話」
ああ、この距離感、私好き。
教室の窓辺で二人の女子中学生が、それぞれに好きな男子がサッカーをするのを見つめている。
私も中学生の頃、親友のちーちゃんと、野球部の練習をそっと見ていたっけ。そんな遠い遠い記憶が蘇る。お互いに好きな人が双子だったから「どっちにする?」ってジャンケンしたっけ(笑)
「私」の親友の中谷は、大人っぽい。自分の恋の距離感を知っている。その距離が心地いいんだって。点Pは動かない方がいいって。
「私」は祥太に告白したのだろうか。中谷のように告白しないのだろうか。
だけど五時間目の数学で点Pどころか点Qまで動き出したものね。柊さんのたとえ話。
読まなくちゃ分かりません(笑)
「やがて一つになる」
花奈をネグレクトな母親から救い出したのは、翼だった。
花奈は翼をハウスキーパーのように思っている。翼は翼で、花奈を護り抜くと同時に愛している。
二人の幸せな物語が描かれているだけなのに、何故か全てが愛おしい。
柊さんの描く「性」の世界が、温かくてやさしいからだろうか。それに、とても上品だ。
花奈がまるで、ふわりと舞い降りた白い天使のように感じた作品。
こうして、ずっと生きていけたら、いいね花奈。
「逆さで描く珈琲の味」
作家の吉川絢音の執筆スタイルは変わっている。両足を壁にもたせかけ、寝転がったまま、画面にぽちぽちと文字を打つ。
民さんは、おそらく吉川絢音の家政婦さんか何かなのだろうか。
異彩を放つ吉川先生と常識派と推測する民さんとのコントラストが楽しい。
そして、民さんは吉川先生の小説が大好きだ。
「作家吉川絢音の書く珈琲の味が読みたいです」
私も味わってみたいです(笑)
「ソウルメイト」
これをGLと呼ぶのだろうか。
初めて読んだので、よく分からなかった。分からなかったけれど、分かったつもりになっている。
そして、分からないはずなのに、何故か、この作品が一番好きになった(もちろん、全部大好きだよ!)
だって、モッチの気持が分かるんだよな~。私も大好きな人やものには執着してしまうから。相手を縛りつけたくなってしまう。一人占めしたくなるーーそんな時代を経て、現在に至る(苦笑)今は、どちらかと言うと野放しが好き(聞いていない)
ところがモッチの恋人、陶子は、そうではなかった。「自分」というものを大切にしている人だった。
そんな彼女を失ってもモッチは、書いていた。
ある日、酷い肩こりを治療しに、モッチは「よりみち接骨院」へ行く。
そこからの表現が秀悦だった。
出てくる、出てくる、モッチから肩こりの原因が。
でも、昨日私が書いた「デトックスサロン」に少し似ていて、私が真似したんじゃないかと思われたら困るな〜とも思った(苦笑)本当に読んだのは、書いた後です(笑)
「ナァー……」
と鳴いた子猫を連れて帰るモッチは、やっぱり私と似ている。
「Boderless」青いぬくもり
2025年note創作大賞中間選考通過作品。
ああ、いいねとため息が漏れた。
六話からなる、それぞれの主人公の恋の小説。色々なカタチ、色々な考え方、感じ方があるけれど、そのどれもに共感してしまう。
でも私が一番好きなのは、
【四、すべて湯気の中】
三姉妹とその母が、日帰り温泉の湯船に浸かる場面だった。少し認知症が入った母を三姉妹が明るく囲む。
何気ない日常を、こんなに楽しく色鮮やかに描ける人は、そうそう居ないと思う。
それぞれの女たちも恋をして、けれど、そんな女の顔だけではなくて、母であったり祖母になる。
恋愛小説部門なのに、変な感想になってしまったかもしれない。でも、この作品に関しては、読んで欲しいから、これ以上のネタバレはしない。
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全ての作品を読み終えて「買って良かった」は、もちろんだけれど、「人の縁」も感じている。
そして、ほんわりとした温かさに私は包まれている。いや、柊さんの世界に抱きしめられているような感覚だ。
恋愛だけじゃない、現代ファンタジーとも違う、藤本 柊さんだけの独特な愛の世界が、此処にあった。
読ませて頂いて、ありがとうございます。
こんな土砂降りの雨ではなくて、柊さんの小説には、しとしとと降る雨が似合う。