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身につける短編小説 Lilly #4

    夕方、

    家族が帰ってくる時間になった。

    玄関が開く音。

    「ただいま。」

    「おかえり。」

    いつもの声。

    いつもの夕方。

    夕食を作って、
    みんなで食卓を囲む。

    今日あったことを話したり、
    くだらないことで笑ったり。

    そんな時間が、私は好きだった。

    でも、

    食事が終わると、
    それぞれが自分の時間へ戻っていく。

    子どもは部屋へ。

    夫はテレビの前へ。

    私はキッチンで片付けをする。

    少し前まで、

    家族はいつも一緒にいるものだと
    思っていた。

    一人になりたいと思うと、

    冷たいのかな、
    と思った。

    誰かと過ごしたいと思うと、

    一人ではいられないのかな、
    と思った。

    でも、

    最近は少し違う。

    一人でコーヒーを飲む時間も好き。

    家族と食卓を囲む時間も好き。

    友人と話す時間も好き。

    そして、

    誰とも話さず、
    静かに過ごす夜も好き。

    どれか一つを選ばなくても、

    全部あっていい。

    大切なのは、

    一緒にいることでも、
    離れていることでもなく、

    その時間を
    お互いが心地よく過ごせること。

    無理をして近づかない。

    無理をして離れない。

    「今日は一人でいたい。」

    そう言えること。

    「今日は一緒にいたい。」

    そう言えること。

    そして、

    相手がそう思うときも、

    「そうなんだね。」

    と言えること。

    それは、

    わがままでも、
    冷たさでもない。

    相手にも、

    自分にも、

    心地よい場所をつくること。

    それがきっと、

    平和ということなのだと思う。

    夜、

    窓を少し開ける。

    涼しい風が入ってくる。

    家の中には、
    それぞれの場所にいる家族の気配。

    私はソファに座って、

    お気に入りの本を開いた。

    誰も私を急かさない。

    私も誰も急かさない。

    ただ、

    それぞれが、
    それぞれの時間を過ごしている。

    なんだか、

    とても幸せだった。

    心地いい。

    そう思えることは、

    きっと、

    平和そのものなのだ。

    この物語は、

    BOUNDARIES
    Amulet Series「Lilly」から生まれました。


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    私は蠍で双子。 好きなものを見つけると、 人生は少しかわいくなる。 本、紙、文具、デザイン。 「蠍で双子舎」という編集室で、 未来の一冊を育てる日々を綴っています。

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