メインコンテンツへスキップ
見出し画像

身につける短編小説 Lilly #6

    朝のカフェが少しだけ楽しみになった。

    毎週ではない。

    毎日でもない。

    時間ができた日に、

    「今日は行こうかな。」

    そう思えるようになった。

    窓際の席。

    いつものコーヒー。

    お気に入りの本。

    それだけなのに、

    少しずつ心が整っていく。

    ある日、帰り道に小さな雑貨店へ入った。

    店の奥に並ぶアクセサリー。

    手に取っては戻し、

    また眺める。

    「素敵だな。」

    そう思った。

    でも、すぐに心の中でもう一人の私が話しかける。

    「なくても困らないよ。」

    「そのお金があれば、ほかに使えるよ。」

    「本当に必要?」

    その声は、ずっと昔から知っている声だった。

    私はアクセサリーをそっと棚へ戻した。

    店を出ようとして、

    ふと立ち止まる。

    ――私は、何を我慢しているんだろう。

    贅沢がしたいわけじゃない。

    誰かに見せたいわけでもない。

    ただ、

    「好き。」

    その気持ちを大切にしたかっただけなのに。

    私はもう一度店内へ戻った。

    アクセサリーを手に取り、

    鏡の前で身につけてみる。

    小さく笑ってしまった。

    「やっぱり好き。」

    その瞬間、

    私は気づいた。

    買い物をしたかったんじゃない。

    “好き”を後回しにしない私でいたかったんだ。

    レジへ向かう足取りは、

    不思議なくらい軽かった。

    家へ帰ると、

    鏡の中の私は昨日と何も変わらない。

    それでも、

    胸の奥には小さな変化があった。

    私は今日、

    アクセサリーを買ったのではない。

    「私の気持ちを信じる」

    という選択をしたのだった。

    この物語は、

    BOUNDARIES
    Amulet Series「Lilly」から生まれました。

    画像
    画像
    画像
     
     
    私は蠍で双子。 好きなものを見つけると、 人生は少しかわいくなる。 本、紙、文具、デザイン。 「蠍で双子舎」という編集室で、 未来の一冊を育てる日々を綴っています。

    あなたへのおすすめ