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身につける短編小説   Lilly #3

    お昼になった。

    冷蔵庫を開ける。

    昨日の夕飯の残りが、
    少しだけあった。

    これでいいか。

    そう思って、
    保存容器を取り出す。

    電子レンジで温めて、

    そのままキッチンに立った。

    一口食べる。

    もう一口。

    ふと、

    手が止まった。

    朝、家族には
    お皿を出した。

    飲み物にはグラスを出して、

    「ちゃんと食べてね。」

    と言った。

    それなのに、

    私は今、

    保存容器を片手に、
    キッチンで立ったまま食べている。

    誰かに、
    そうしなさいと言われたわけではない。

    忙しいわけでもない。

    急いでいるわけでもない。

    ただ、

    いつの間にか、
    そうなっていた。

    私は箸を置いた。

    食器棚を開ける。

    奥に、
    お気に入りのお皿があった。

    少し前に買った、
    白いお皿。

    料理を移して、

    冷蔵庫に残っていた野菜も
    少し添えた。

    グラスに水を入れる。

    テーブルまで運んで、

    椅子に座った。

    それだけなのに、

    なんだか少し、
    おかしかった。

    誰も見ていないのに。

    私ひとりなのに。

    でも、

    「私ひとりだから、これでいい。」

    と、

    いつから思うようになったんだろう。

    もう一度、
    箸を持つ。

    昨日と同じ料理なのに、

    さっきより、
    ちゃんと味がした。

    自分を大切にするって、

    特別な場所へ行ったり、

    何かを買ったりすることだけじゃ
    ないのかもしれない。

    自分を、

    雑に扱わないこと。

    それもきっと、
    自分を大切にするということだ。

    食べ終わって、

    お皿を洗う。

    いつもの午後が始まる。

    何も特別なことは起きていない。

    ただ今日は、

    自分にも、

    「ちゃんと食べてね。」

    と言ってあげられた気がした。

    誰かを大切にするように、

    私も、

    私を大切に扱っていい。

    この物語は、

    BOUNDARIES
    Amulet Series「Lilly」から生まれました。

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    私は蠍で双子。 好きなものを見つけると、 人生は少しかわいくなる。 本、紙、文具、デザイン。 「蠍で双子舎」という編集室で、 未来の一冊を育てる日々を綴っています。

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