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身につける短編小説 |Tree 第4話

    Tree 

    ――それでも、暮らした。

    結婚式が終わってからは、出産の準備をしていた。

    仕事はしていなかった。

    お腹の中には、なかなか出てこない子がいて、
    私はその子と一緒に、毎日を過ごしていた。

    そんな頃、東日本大震災が起きた。

    関東にいた私のところも、大きく揺れた。

    テレビには津波の映像が流れ、
    その後は放射線のことも心配した。

    世界が大きく揺れている中で、
    私のお腹の中の子は、まだ出てこなかった。

    予定日を過ぎても、
    出てくる気配がない。

    ところが、ある日ふと思った。

    「あ。
    今日の夜、病院に行くことになる気がする。」

    そう思って、入院の準備を始めた。

    そして、その夜。

    本当に陣痛がきた。

    痛かった。

    ひたすら痛かった。

    感動的な何かを考える余裕なんてなくて、
    ただ、痛かった。

    そして午後2時ごろ。

    予定日を6日ほど過ぎて、
    少し大きめの赤ちゃんが生まれた。

    可愛かった。

    ものすごく可愛かった。

    でも――

    寝ない。

    泣く。

    ずっと抱っこ。

    降ろすと泣く。

    また抱っこ。

    そして私は腱鞘炎になった。

    それでも可愛いから、許した。

    髪も抜けた。

    身体もなかなか元に戻らない。

    寝不足で、
    イライラもした。

    赤ちゃんが生まれたら、
    幸せで可愛くて、それで全部うまくいく。

    そんなわけではなかった。

    私は、赤ちゃんとずっと一緒にいたかった。

    仕事をするように言われると、
    仕事を探さなきゃ、と思った。

    でも、昼なのか夜なのかもわからないような毎日で、
    仕事を探す余裕なんてなかった。

    子どもがいない友達とは、
    いつの間にか生活が違っていた。

    私は、子どもと一緒にいた。

    そして、
    家族の仕事の都合で、
    私たちはいろんな場所で暮らした。

    幼稚園の頃には次男が生まれた。

    子どもたちを連れて海外でも暮らした。

    帰国して、また東京。

    そしてまた引越して今の場所へ

    私は、仕事をしても辞めて、
    家族についていった。

    でも、それができたのは、
    私には「何もなかった」からだった。

    夫には仕事があった。

    子どもたちには、それぞれの生活があった。

    私は、ついていくことができた。

    そう思っていた。

    できなかったことも、たくさんある。

    でも。

    知らない場所で、
    私は頑張って暮らした。

    ちゃんと生活した。

    それも、私の人生だった。

    今思えば、
    私がいた会社も、
    私がいた家も、
    私がいたお店も、

    その後、なくなっていることが多い。

    人も変わった。

    私が辞めたあとに、
    何人もの人が辞めて、
    あの頃の空気はもう残っていなかった。

    戻ろうと思っても、
    もう戻れない。

    まるで人生ゲームのように、
    ひとつの場面が終わると、
    その場所ごと消えてしまうみたいだった。

    だから私は、
    ずっとどこかで思っていた。

    ――私には、帰る場所がないのかな。

    でも。

    今はまだ、
    その答えを知らない。

    ただ私は、
    子どもたちと暮らしていた。

    いろんな場所で。

    いろんな気持ちを抱えながら。

    それでも、

    ちゃんと暮らしていた。

    この物語はBOUNDARIESから生まれました。

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    私は蠍で双子。 好きなものを見つけると、 人生は少しかわいくなる。 本、紙、文具、デザイン。 「蠍で双子舎」という編集室で、 未来の一冊を育てる日々を綴っています。

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