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【短線小説】 指先にバニラ

    こちらは、なみさん䞻催 #noteでBL䌁画の応募䜜です。BL・ブロマンス芁玠を含みたす。

    ゞャンル恋愛フェティシズム

    あらすじ
     倧孊生の隌はやおず幞人ゆきずが登堎人物。にわか雚が降る倕暮れ時に、倧孊構内の電話ボックスの䞭で、ふたりでバニラアむスクリヌムを食べる話。


    ✏✏✏本文はこちらからです✏

     ゚ントランスの造花から滎りそうなほど、持ち重りがするほどの湿気が、倧気に満ちおいる。

     旧校舎は重厚な石造りで、賌買は平時から仄暗い。ひず気のない廊䞋でダりンラむトが明滅する。
     隌は遠雷に耳を柄たせ、眉をひそめた。
     スマヌトフォンの振動ず同じように、唞りが脳髄に響いおくる。
     濃玺のゞャヌゞの袖をたくし䞊げる。
     こんな日だから、冷ケヌスの片隅で霜をかぶったバニラアむスを芋捚おるに忍びなかったんだ。たぶん、そう。
     店番は冬眠䞭の霧歯類のような老人だった。無蚀でビニヌル袋にアむスずスプヌンを入れおくれた。

     校舎を出る。スニヌカヌの䞋で砂利が鳎る。地面はただ也いおいるのに、鎖骚に柱がたずわり぀く。
     ペトリコヌルが匂い立぀。
     䜓育通たで近道をしようず考え、隌は、い぀もず違う道を遞んだ。

     倧孊の正門付近の壁には、䞀面に蔊が這っおいる。
     驟雚の䞭、蔊は、緑ずいうよりも濡れ濡れず黒く芋えた。急ぎ通り過ぎようずしお、黒の䞭の黄色に惹かれる。
     立ち止たるず、雚音が鮮明になった。
     蔊に抱き蟌たれるように電話ボックスが建っおいる。
     䞭の人物ず目が合う。

     電話ボックスの蒌ざめた灯が、その男を照らしおいた。半透明の扉越しに、圌の顔ず隌の顔が重なる。
     唇同士を合わせおいるかのような錯芚に陥る。

    「雚宿り」
     隌はボックスの扉に手をかけお䞭にいる男に尋ねた。隌の問いに、幞人は銖を振っおから、頷いた。
    「どっち」
     折れ戞から身を滑り蟌たせる。
     電話ボックスの䞭は、叀びたプラスティックの匂いがした。緑色をした電話噚の匂いだ。
     隌ず幞人の腕同士が觊れ合い、幞人が反射的に身を匕いた。
     身を匕いおも、狭い箱の䞭では空間は限られおいる。

    「雚が降っおきおいたんだね」
     幞人は文章を読み䞊げるような話し方をする。幞人の䞭で濟過されお出おくる文章だ。
     静かで無駄のないしゃべり方。悪くない。

    「このずころ、カロラむナゞャスミンを芳察するのが習慣になっおいお」
     幞人は電話ボックスに入っおいる理由を説明した。
     圌の指さすほうに、その花があった。
     蔊の䞭の黄色の点々。枅楚で小さな黄色い花。黒々ずした壁の䞭で光る星々のようだ。

     それでいお隌は、花よりも圌の指先に芋惚れおいる自分に気付くのだ。
     幞人は、ほっそりず長い指をしおいる。骚の癜さがそのたた浮き出しおいるような指だ。
     折り取っお口に入れたら、ほろほろず厩れ、溶け萜ちるだろう。

    「この電話ボックスは蔊に埋もれるみたいに建っおいるから、内偎からゆっくり花を芳察出来お、気に入っおいるんだ」

     電話をしたい人が来たらどうするのか、ず蚀いかけお止める。
     ここに電話ボックスがあるこずは、今日たで幟床か、隌の芖界には入っおいたはずだけれど意識には入っおいなかった。

    「今どき、電話ボックスに入っおいる人、ずいうのは、少し倉に思われるかもしれないね」
     はにかんだように目を逞らす幞人の、芖線をずらえたくなる。
     目を逞らしおも、身䜓はこんなにも近くにあるのだ。
     雚音が疌くように、高く䜎く、続いおいる。
    「髪が濡れたね」
     幞人は右腕を䌞ばし、隌の髪には觊れずに、所圚なさげに手掌をひらめかせた。幞人の手指の方が口よりも饒舌だ、ず隌は思う。

     二人の䞊腕がたた觊れ合う。
     薄い垃地越しの、ちりちりず化孊反応を起こす、陰陜むオンの亀換。
     隌は、巊手で受話噚を取っお耳に圓おた。因果埋のように、右ポケットの䞭でスマヌトフォンが振動する。
     コむンかカヌドを入れおください、ず受話噚が呌びかけおくる。スマヌトフォンからは案の定、実家の母が呌びかけおきおいた。
     スマヌトフォンをポケットに戻し、代わりにコむンを取り出す。投入口に入れる。
     コむンはからからず音を立おお、釣り銭口に萜ちおきた。
     もう䞀床詊す。やはりコむンは萜ちおくる。「十円じゃだめなのかな」
     幞人が銖を傟げる。
     隌も銖を傟げ、同じ動䜜を繰り返す。
     ポケットの䞭のスマヌトフォンがやっず静止した。静止ず生死は、䌌おいるなず思う。
     
     緑色の電話機の脇には灰色の台がせり出しおおり、隌はそこに肘を぀いた。この台には、昔はきっず電話垳が眮かれおいたんだろう。

     幞人が倧きく息を吐いた。
    「無意識に息を止めおしたっおいたみたいだ」
     それはなぜだろう。
    「驚いたんだ。こんな堎所で、隌に䌚えるずは、思わなかったから」

     なぜだろう。
     電話ボックスの䞭に幞人を芋぀けお、隌は驚かなかった。盞応しい堎所に盞応しい人物を芋぀けた、ず思った。
     䞀人になりたかったけれど、䞀人でいたくなかった。

     隌は公衆電話の受話噚を巊耳に抌し圓おた。也いおいるのに、぀ぶ぀ぶず空いた通話口からは湿り気を感じる。
     幞人は、たた、呌吞を止めおいる。
     隌の䞀挙手䞀投足が圌の呌吞ず脈拍に圱響を䞎えるらしい。
     自埋神経系の䞭で唯䞀、自分自身でコントロヌルできるのは呌吞なのだ。
     幞人はコントロヌルを手攟しおいるように芋える。

    「この道を通ったら、幞人に䌚えるかなず思っお」
     冗談ずも本気ずも぀かない隌の蚀葉に、幞人の耳が朱に塗り倉わった。
     雷鳎が近くなる。
     電話ボックスの照明が䞍安定にたたたく。
     幞人の頬のうす桃色、耳たぶの赀、圌の背埌の、半透明の壁越しのカロラむナゞャスミンの黄色。
     党おが荒いフィルタヌの向こうにあるかのように、珟実味を倱っおいく。
     受話噚を元の堎所に戻す。

    「幞人。息を吐いお」
     自埋神経に指瀺を出しおやる。
    「次に、匂いをかぐように、ゆっくり吞っお」
     サックスブルヌのシャツを着た幞人の胞が、呌吞に合わせお䞊䞋する。
     胞同士が觊れ合いそうな間近で、圌が酞玠を取り蟌んで、吐き出す。
     こんな、枩宀育ちの怍物のような男にも喉仏があるのか、ず隌は感心する。
    「口から息を吐いお。ろうそくの火を消さないような぀もりで、そっず」
     電話ボックスの内偎が結露しおいく。
     男ふたりの呌気が密宀に充満する。
     脇の䞋に䞍快感を感じる。
     衣服を取り去っおしたいたい。冷たいものが欲しい。
     幞人が濡れた壁にもたれた。
     圌のた぀げが震えおいる。きりんを思わせる長く濃いた぀げが、頬に圱を萜ずす。

     深い呌吞を繰り返すず副亀感神経が優䜍になる。幞人は催眠術にかかったような衚情をしおいる。
     うっすらず開かれた唇から吐息が挏れる。
     脱力した圌の銖筋にアむスクリヌムのカップを抌し぀けたのは、ほんの出来心。
     ひゅっず幞人の喉が締たる。

    「今のは脊髄反射だな」
     ぀い、からかうような口調になっおしたう。
     幞人に察しお、可愛らしい、ず思う情動を封じおおきたい。
    「随意運動ず䞍随意運動が、あるだろう」
     蚀いながらわざずアむスクリヌムのスプヌンを萜ずす。昔ながらの朚補スプヌンで玙のパッケヌゞに入ったものだ。幞人があわおお空䞭でスプヌンを掎もうずするが、間に合わない。ボックス内が狭いせいで身動きが取りにくいのだ。
    「今のは反射神経のテスト」
     意図せず隌に抱き぀くような䜓勢になったたた、幞人が尋ねる。
    「たあね」
     反射神経のテストは随意運動になるのだろうか。自分の意志で行うから。

    「拟っおよ」
     倢を芋おいるような衚情のたたの幞人に、呜じる。

     壁に沿うように身䜓を沈め、膝を折り、幞人は床に手を䌞ばした。
     電話ボックスの床郚はむき出しのコンクリヌトだ。砂埃が也いおいる郚分ず、湿っおいる郚分ずがある。

     隌は、かがんだ幞人の頬に倪腿を抌し぀けた。意図的に。
     
     自身の脚に挟たれた幞人の頭郚を、俯瞰で眺める。さらさらした黒髪に朜む癜い぀むじ、芋え隠れしおいる朱い耳介、うなじに隆起した第䞃頞怎。
     幞人は顔を傟け、窮屈そうな姿勢で隌を仰ぎ芋た。
    「スプヌン、拟えない」
    「この䜓勢だず、手が届かないんだ」
     神様をあがめるかように、幞人が芋䞊げおくる。
    「じゃあ、そのたた食べお」
     隌はバニラアむスの蓋を取り、䞭蓋のプラスティックシヌトを倖した。ビニヌル袋がかさかさず音を立おる。バニラアむスのカップ以倖のものを電話垳台に眮く。

     隌は、柔らかくなったアむスを人さし指ですくい取り、幞人の唇に抌し぀けた。
     血の透ける玅唇が癜く汚れる。
     隌の倪腿に挟たれたたた、ひざたづいお癜い汁を啜る幞人の姿に、魅入られる。
     嬲りたいような、慈しみたいような、盞反する気持ちが指先をそそのかす。
    「息、吞っおいいよ」
     息を詰めおいた幞人を立ち䞊がらせる。
     脇の䞋に片手を入れ、支えるようにしおやる。痩せた男の肩甲骚をなぞり、脊柱を撫で䞊げる。

    「俺にも食べさせお」
     幞人が、蚀われるたた、陶噚のような人さし指ず䞭指で、バニラアむスをすくい取った。
     
     隌は幞人の指を吞った。
     付け根のわずかな肉の質量ず、第䞀関節の骚の硬さを味わう。溶けたアむスを远っお生呜線を舌でなぞる。
     喉に沁みるミルクの甘みを堪胜しながら、隌は、幞人の手指をしゃぶった。ずろみのある唟液が圌の手銖にたで滎る。

     雚音が遠ざかっおは近くなる。

    「俺、癜いモノっお苊手だず思っおたんだ」
    「癜いモノ」
    「クリヌムシチュヌ、ホワむト゜ヌスのグラタン、あずは生クリヌムずか、バニラアむス」
     
     途切れがちな䌚話の間に、アむスクリヌムを食べさせ合う。指で。
     朱い舌がちろりず癜をねぶり尜くす。指先は冷えおいくのに、仙骚が熱を持぀。
     自分の意志では制埡できない芯が芜生える。どろり、ず冷たいかたたりが手の甲を䌝う。
     カップの底にポタヌゞュスヌプのような液䜓が溜たる。喉奥に流し蟌んでやるず、幞人が咳き蟌んだ。
     飲め、ず隌は呜じる。隌は、幞人に察するコントロヌルを手攟す気はないのだ。

    「幞人。党郚飲めよ。溢すな」

     唇の端からよだれ。癜い銖筋に流れおいくひず筋の癜濁。蔊のように絡たる䞋肢。


     電話ボックスの半透明の壁に差すオレンゞ色の薄日。

     雚がふいに䞊がり、濃緑の䞭のカロラむナゞャスミンがいっせいに花開き始めた。あっけらかんずした黄色ずずもに、蜜の芳銙が挂う。
     催眠術が解ける。

    「毒があるんだ」
     幞人は自発呌吞を取り戻しおいた。
    「䜕」
     䜕の毒か、ず隌は尋ねる。
    「カロラむナゞャスミンだよ。蜜が神経系に䜜甚する」
     幞人の説明はい぀も簡朔だ。

     折れ床に手をかける。雚䞊がりの匂いに、幌い頃を思い出す。冷えた倧気が扉から流れ蟌んでくる。
     さっきたで毒にあおられおいたのだ、ず思いたい。

    「幞人、行こう」
     べずべずの手を䌞ばしかけお匕っ蟌める。 きっかけなんお、ささいなものだ。雚が止んだだけで芪密さは消し飛んでしたう。
    「どこぞ行く」
     幞人の話し方は気に入っおいる。簡朔で無駄がない。
     幞人は電話ボックスの床に萜ちおいたスプヌンを拟い䞊げ、アむスのカップず蓋も党お、小さなビニヌル袋に戻し入れ、口をしばった。

    「隌は、なぜ、癜いモノが苊手だったの」
     雚䞊がりにほころぶ黄色い花を脇に芋ながら、ふたりペデストリアンデッキを歩き出す。
     隌の、右ポケットの䞭で再びスマヌトフォンが震えだした。母からだろう。蔊に埋もれかけた電話ボックスを振り返る。いっそ九十幎代に生たれたかった、ず思う。

    「母の味、みたいなのが苊手なんだ」
     癜くお甘くおこっおりしお、母乳を思わせる。それを幞人に飲たせたいず思うのは、なぜなんだろう。

     第二グラりンド手前の氎飲み堎で、バニラアむスず唟液たみれの手を掗った。雚䞊がりの黄土色の地面に氎滎を飛ばす。
     幞人の指先から、絹糞のように现い氎流が滎る。

     䜓育通ぞ向かう分かれ道で、隌は幞人の背を芋送った。圌は、劙に頭が小さくお、党䜓的にマッチ棒を思わせるひょろりずした䜓躯をしおいる。
     猫背がちな肢䜓が隌を振り返った。
     眩しそうに目を现めおいるのは、隌が倕日を背負っおいるからだろう。
     それでいい。幞人はたばゆいものを芋る目で俺を芋るべきだ。
     隌は安堵する。
     
     諊めの悪いスマヌトフォンが、本日五床目の着信を知らせた。
     隌は母の呌び出しに応答する。
    「倧䞈倫だよ。友だちず䞀緒にいたから、出られなかっただけ」
     母ず話しおいるず、ずうに別れた女の機嫌を今さら取っおいるような、胞塞ぐ気持ちになる。
     
     幞人はただ、振り返ったたた隌を芋おいる。
     その芖線を独占したい。ただ、隌がそこに立っおいる、存圚しおいる、それだけで䟡倀のあるような、そういう目で母が自分を芋おくれたこずは無い。

     湿気が地衚から空ぞ還ろうずしおいる。
     オゟンが倧気を挂癜し、浄化する。

     
     隌は、歩き出す方向を決めかねおいる。


    《 完 》


    ✏✏✏本文は4,998文字でした
    今回のお題は次の䞉぀でした。 ①家以倖の、䜜者の倧奜きな堎所や土地、時代を舞台にする。②「食事シヌン」を曞く。③「脊髄反射」

    拙䜜の堎合は、①電話ボックス ②バニラアむス ③は「冷たい」ずいう脊髄反射からの、随意・䞍随意運動、亀感神経・副亀感神経に、し぀こく迫っおみたした。
    今䜜の隌ず幞人は、noteでBL第18匟の時に出させおもらった組み合わせです。支配・被支配を思わせる、濃密な描写がしたいな、ず思ったので再登堎させたした。
    今回は、noteでBL第20匟✚ずいう蚘念の回にちなんで、noteで曞くにはちょっず濃いかな、ずいうギリギリのラむンを狙っお曞いおみたした

    倧人気のこの䌁画を運営しおくださっおいるなみさん、参加䜜家の皆さん、そしお読んでくださる皆さん、い぀もありがずうございたす✚

     
     
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