
新しい雑巾は最初は真っ白で生地もしっかりしていて、それでいてふんわりとした柔らかさもある。しかし埃をさっと乾拭きしてから水に濡らして汚れを拭き取ると残っている埃によって案外すぐに黒く着色してしまう。雑巾の価値は開封された段階から静かに下がり続けていくので例え使用していなくても劣化は進む。汚れてしまった雑巾を洗濯すると軽く黒ずんだ汚れを取ることが出来るが、酷く黒ずんだ汚れを完璧に落とすことは難しい。その小さな汚れの蓄積の末に辿り着く先と言えば、だんだんと黒ずんだ生地の縫い目の糸がほつれてきたり雑巾自体がくたくたになって変形しごみ箱に捨てる未来だ。当たり前だがその使用方法によっても朽ち果ててしまう期間は増減する。
最近はその雑巾と私が同じ構造に見えてくることがある。黒ずんだ汚れを拭きとってその汚れを自身に刻むことさえ出来ないまま頑固なこびりついた汚れをどれだけ拭き取っても拭き取ることが出来ず真っ白な生地だけが、ただひたすらにぼろぼろになっていくもどかしさ。本当はもう使い物にもならないと理解していてもそれでもひたすらに使い続けるその諦めの悪さには自分でも驚かされることがある。そんな使えない雑巾の時々陥ってしまう不眠の先にあるのは毎回不眠の時間の新記録更新だけという何の意味もない皮肉で無意味な消耗だけ。早く眠らないといけないと思えば思うほど寝ることが出来ずに時間だけが物凄い速度で過ぎていく。勝手に決めた自身を律する起床予定の時間が目前に迫ると、また今日も眠れずこの状態かとほぼ諦めに近い気持ちが湧き起こるものの現時点で眠れないという事実と過ぎ去った時間は変わらない。そんな状況下で寝られない、もう無理だというようなことばかり考え込んでいても意味がないので翌日のパフォーマンスを継続させる為に逆算して最大限に維持出来る最低限の睡眠時間で抑えることを考えることが最優先だ。まあそうやって考えることが不眠の原因だがそこはどうしようもない部分で割り切るしかない。
最近になって特に強く感じることと言えば昔から唯一幸福感の高かった食事の時間にこれまでと同じような幸福感を感じにくくなってきたことだ。私の現在の食事のサイクルが夕方に目覚めそのまま晩に突入してしまうので私にとっての朝ご飯の時間が一般的な晩御飯といった具合だ。その為、一般的な朝ご飯の時間が私の晩御飯の時間なのだ。早朝になって私にとっての晩御飯の時間になるとようやく少しだけ食欲が湧いてくるのだが最近はその食欲にも、かなりむらがある状況だ。その為、唯一夫婦で過ごす私にとっての朝ご飯である晩御飯が以前に比べると、まるでガソリンを給油しているような無機質な感覚になってしまっている。それでも夫婦で共有出来る唯一のかけがえのない時間は私にとって1日の中で最も有り難い時間であることには変わりはないのだが、せっかくなら以前のようにもっと腹ぺこの状態で美味しくがつがつ食べたいと言うのが本音なのだが現実は異なっている。更には私にとって始まりの合図でもある為1日の締めくくりというような一般的な時間帯の気持ちの解放も難しい。
それに付け加えて自分が役に立っていないと考えれば考えるほどその状況がとても申し訳なく思う。そんな状況の繰り返しをしながら自分を俯瞰すると私はまるでこびりついた汚れに立ち往生するぼろ雑巾と化しているのではないかと思うのだ。最初はどんどん汚れも拭き取ってくれる雑巾だったが今は片面は一見綺麗に見えるがもう片面は縫い目が解れてくたくたの黒ずんだどこまでも汚れきった歪な捨てる手前のぼろ雑巾に過ぎないのではないかとも思う。そんなぼろ雑巾の最後に辿り着く先はごみ箱へダイブだ。しっかりと役目を終えいつもの綺麗な台の上には真っ白でぴかぴかのふんわりとした新しい雑巾が待ち構えている。一方でぼろ雑巾はその辺に放り投げられて放置されているかそのまま人差し指と親指で摘んで汚い物としてごみ箱にぽいっと捨てられる運命だ。
ぼろ雑巾は今日も何とか呼吸をしているがまだまだ真っ白な部分で黒く汚れたしつこい塊を目立たないくらいに拭き取ることが出来るまではしっかりと拭き取っていこうと思う。例え片面は黒ずんでいても、もう片面を真っ黒にする余力はまだまだ残っている。しかしこれから先の時代はこれまでとはまた異質の課題に悩まされる時代に変化していくというか既に始まっていると考えているが、これまでのような温かさは心の片隅に忘れずにいたいものだ。どんどん便利な世の中に進化しているとは言え外側だけの見せかけのはりぼてでは意味がない。ぼろ雑巾を数で圧倒してまだまだ余力の残る段階で捨てるのではなく、ぼろ雑巾が綺麗で真っ白の輝きから全てを真っ黒に拭き取るまでそしてその中でもしっかり矜持を取り戻し活躍出来る生きた目の時代がいつか再来することを思いながらぼろ雑巾である私はとにかく今日も相変わらずこびりついた、しつこい汚れを擦りながら拭き取っていこうと思う。