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銀河皇帝のいない八月 ⑨

    12. 約束


     半壊した部室棟の屋上に、二つの影が立っている……


     空里とシェンガは、夕日と自分たちの間に広がった、奇妙な景色を飽くことなく眺めていた。


     戦闘中に移動していた惑星改造船は、消滅した東京の西側に落下し、スター・コルベットとシールドに守られた部室棟の一部は墜落の被害をまぬがれていた。

     完全な荒野と化した地上には、巨大な構造物や船体の残骸が突き立ち、金属製の神々が眠る墓場か、発狂した巨人の庭師による庭園にも見えたりした。


     空里の世界は完全に変わってしまった。


     この変わり果てた世界で、これから何をしていけばいいのか……

     とにかく、銀河皇帝になる。

     それだけはしなければならないこととして、明確だった。

     でも、何のために? 

     とにかく、彼に言ったのだ。銀河皇帝になる、と。

     今はそれだけしか理由は思いつかなかった。


    「アサト……」

     ネープがやって来て声をかけた。手に何か畳んだ布を持っている。

    「これを着てください」

     広げて空里の肩にかけ、首元のフックをかける。マントというか、ケープというか……全身をすっぽりと包むような一枚布の衣服だった。

    「皇位後継者の聖衣です。即位の日まで、出来るだけ着ていてください。メタレザーで出来ていますから、環境の変化に対応し、多少のエネルギービームなら防ぐことも出来ます」

     見た目はなんてことのないマントなのに、最新技術の賜物というわけだ。

    「あ……ありがと。でも、これ……」

     少年は空里の懸念をすぐに察した。

    「〈彼〉のものではありません。さっき、自分で作りました」

     手作りのプレゼント……こんな時でなければ、飛び上がって喜びたい……

    「なんでも出来るのね、完全人間さん」

    「あなたのためなら、何でもします」

     あまりにストレートなその物言いに、空里は頬をほてらせた。

    「アサト、これから即位まで、まだ困難な道が続くと思います。しかし、私が必ずあなたを銀河皇帝の座に着かせて差し上げます」

     それが、〈法典ガラクオド〉の定めだから……よね。


     空里はネープの優しい言葉を素直に喜べない現実に失望しながら、少しでも長く彼といたい気持ちも感じずにいられなかった。

     皇帝に即位したら……いや、今でも彼は自分の言うことに何一つ逆らわず、聞いてくれることだろう。でも、それがいいことなのか確信が持てない……

     かつて校庭だった眼下の浜辺では、チーフ・ゴンドロウワが戦闘の後片付けをしている。命令すれば言うことを聞く人造人間……空里はネープをそのように思いたくなかった。


     完全人間の少年は、振り返ると自分の仕事へ戻ろうとした。

    「ネープ……」

     空里は、マントの合わせを強く握りしめて言った。

    「約束して。いつまでも私のそばにいるって」

    「ご命令であれば、その通りにいたします」

    「命令じゃないの。約束して欲しいの」

     風がネープの前髪を揺らし、青紫色の双眸が夕日に光った。

    「約束……します」

     ネープの後を追って階段を降りて行ったシェンガは、疑念に毛の逆立つ顔を彼に見せつけた。

    「……お前、違いが分かってるのかよ」

     少年は何も言わずに地上に下り、一度だけ振り返って空里の姿を見上げた。


     少女は屋上の端に腰掛け、沈む夕日をいつまでも眺め続けていた。




    つづく

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