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【あなたに会えて幸せ】/第1章第2話「トモキの苦悩とふわとろオムレツ」

    《脊髄損傷のトモキです。手話歌解説ありがとうございます》

    You Tube のコメント欄ではあまり見かけない丁寧な書き込み。
    斬新だった。

    もちろん、私宛のコメントではなかった。
    ただ、私と同じように『水時計』の歌が好きで、同じように手話の動きに惹かれた、見ず知らずの誰かの書き込み。 

    だけど、【脊髄損傷のトモキ】という名前に、私の指がピタリと止まった。 
    車椅子ユーザーが、こんなところで丁寧にコメントを残している。

    なんとなく気になって彼のアイコンをタップすると、そこに広がっていたのは、私と同じように登録者が伸び悩む、さえない車椅子YouTuberのチャンネルだった。
    チャンネル名は、【動かぬ足と共に】。
    うふふ。
    私と似てるかも。

    画面の中の彼は、ぶっきらぼうだけど、どこか真っ直ぐな瞳をしていた。
    淡々と、だけど真摯に語っていた。

    「俺は、トモキ。22歳。
    高校の時、事故で脊髄損傷し、車椅子生活6年目。損傷部位は仙髄せんずい、仙髄不全損傷。
    両親は、猛反対だったが、自立の道を探して、独り暮らし。

    独り暮らしは、予想以上にキツかった。
    入浴・トイレ・掃除洗濯・買い物・料理。
    ひとつずつ、こなしながら、それら生活を YouTube で配信していた。
    中でも、トイレはきつかった。
    歩けないこと以上に、排泄の管理と毎日向き合うことが、男としてのプライドを何度もへし折ってきた。

    俺のキッチンは、シンク下のドアを外し、足が入る。
    蛇口に近いから、使いやすい。

    チャンネル名は、【動かぬ足と共に】。
    あまりに自虐的な印象なのか、チャンネル登録者は、わずか390人。

    ネットで、脊髄損傷と車椅子生活アドバイザーを開業しているが、相談は散発的で、大した収入にはならなかった。
    いつまで親の仕送りに頼れるかな、、、

    高校時代までの同級生たち。
    就職して働いている奴、大学に進学して今年就職した奴。
    みんな輝いて見える。
    俺も大学進学を考えないわけではなかった。
    通信制大学もある。
    しかし、【何か】が違う気がしていた。」


    「歩けないこと以上に、この排泄の管理と毎日向き合うことが、男としてのプライドを何度もへし折ってきた」
    そう語るトモキの瞳に、私は強烈な親近感と、胸が締め付けられるような愛おしさを覚えた。

    気がついたら私は、彼の自己紹介動画のコメント欄に、衝動的に書き込みをしていた。

    《はじめまして!ミクと言います。
     水時計の動画のコメント欄から飛んできました。
     私も車椅子で独り暮らしをしていて、YouTuberをやっています。
     親の仕送り頼みなの、めちゃくちゃ分かります(笑)》

    送信ボタンの上で、私の指が小さく躊躇した。見ず知らずの、しかも同じ車椅子ユーザーの男性に、いきなりコメントなんて迷惑じゃないだろうか。
    でも、止められなかった。

    トン、と画面を叩く。
    私の拙いメッセージが、ネットの海を渡って彼のもとへ届いた瞬間だった。

    数時間後。
    スマホが小さく震えて、通知画面にトモキの名前が出たとき、
    「あ、本当に返信がきた……」
    と、ベッドの上で思わず身を起こしてしまう。

    「はじめまして、ミクさん。
     コメントありがとうございます。
    水時計の歌から、僕のこんな地味な動画に飛んできてくれたなんて、なんだか恥ずかしいです。

    まさか同じ車椅子で独り暮らし、おまけに仕送り頼みの仲間(笑)の人からコメントがもらえるなんて思わなかったので、びっくりしてます。

    僕なんか、動画で排泄のこととか情けない弱音ばっかり吐いてますけど……ミクさんに『分かる』って言ってもらえて、すごく救われました。ミクさんの動画もさっそく見させてもらいました。床置きのIHで自炊してるの、すごい工夫ですね!
    僕もふわとろオムレツ作ってますよ」

    私の動画をすぐにチェックしてくれたらしい。床置きのIHヒーターを見つけられて、今度は私のほうが少し耳が熱くなった。

    これが、全ての始まりだった。
    画面越しのおしゃべりは、驚くほど自然に弾んだ。 
    車椅子ユーザーの視線でしか分からない、街の凸凹や自立の焦り。
    それを嘆くのではなく、後輩車椅子ユーザーに向けて優しく発信しているトモキに惹かれていった。


    第3話に続く

     

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