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宙に舞う、その一瞬に


    コインを投げて、表か裏かで決めたり。

    「どれにしようかな、天の神様の言うとおり」

    指をひとつずつ動かして、最後にどこで止まるかを見たり。

    子どもの頃から、そんなふうに何かを決めることがあった。

    あれって、不思議だなと思う。

    どれでもいいから決めてほしい、という顔をしているのに、
    いざ、その瞬間がくると、

    「あ、そっちがよかった」

    なんて思うことがある。

    コインなら、投げてから落ちてくるまでの一瞬。

    まだ表か裏かわからない。
    宙に浮いている、ほんの短い時間。

    表ならいいな。
    裏でありますように。

    そのときになって初めて、自分がどちらを望んでいたのかに気づく。

    投げる前には、わからなかったのに。

    いや、わからないふりをしていたのかもしれない。

    決められないんじゃなくて、
    コインのせいにして、後押しして欲しかっただけかもしれない。

    あれは、どちらかを選ぶための儀式でもないし、
    運に委ねるためのものでもない。

    自分の中の本音がふと透けて見える行為だ。

    人との関係も、少し似ている気がする。

    何でも話せる人だと思った。
    この人なら、話せそうだと思った。

    だから仲良くなったのに、
    近くなればなるほど、どんどん話せないことが増えていく。

    寂しいことも、
    会いたいことも、
    本当は気にしていることも。

    寂しさを埋めたくて近づいたはずなのに、
    その人には寂しいと言えなくなっている。

    何でも話せると思っていた人が、
    いつの間にか、いちばん言葉を選ぶ相手になっている。

    そんな自分の気持ちも、
    本当はどこかでわかっているのかもしれない。

    でも、まだわからないふりをしていたい。

    コインは、投げてしまったらもう落ちてくる。
    どちらが出ても、それに従うしかない。

    自分で投げたのだから。

    宙に浮いているあの一瞬に、
    本当の気持ちがこぼれてしまう。

    そして、それに気づいたときには、
    もう、投げてしまっている。


    ある人は、嘘がつけなかった。

    「あ……裏だった……」

    そう言って、

    「白湯さん….またね….。」

    と、小さな優しい嘘を置いてった。

    ある人は、嘘をついてくれた。

    「表だった!」

    「見せて」

    その言葉に被せるように、

    「あっ!」

    と、自然とコインを下に落とした。

    あーぁって笑いながら コインを拾うフリして涙を拭いた。

    本当に表だったら、
    苦しくなかったかもしれない。


    宙に舞う、その一瞬。

    自分の本当の気持ちがこぼれることもあれば、
    誰かの本当の気持ちを知ってしまうこともある。

    そして、ときには、
    本当じゃない言葉に救われることもある。

    どちらが優しいのかなんて、
    今もよくわからない。

    ただ、落ちてしまったコインを、
    もう一度投げることはできない。







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    立ち止まったときの気持ちを、 ちゃんと分からないまま置いています。

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