
安易なブランドロゴ展開の罠とラグジュアリーの正当性を理解する
今日のラグジュアリー市場は、ラグジュアリーブランドが元の領域から抜け出すこと、拡張によって成長を続けています。ラグジュアリー戦略を体系化した文献(Kapferer & Bastien, 2012、以下、本文献)によれば、拡張の形態には、ブランド・エクステンションとブランド・ストレッチングの、2つがあります。前者は、ラグジュアリーの領域を保ったまま、新しい市場に展開します。これには時間とコストが必要になります。後者は、プレミアム戦略を適用して、基本的にはライセンス供与になります。この2つの違いは重要ですが、本文献に従って、ここでは2つをまとめて、ブランド・ストレッチングと呼びます。ブランド・ストレッチングによる製品オファリングは、ライン拡張とブランド拡張の、2つに分けられます。
ライン拡張は、コアビジネス内での展開です。高級ブランドは、最高級の商品に加えて、より手が届きやすい低価格帯の商品も展開してきました。
ブランド拡張は、コアビジネス外への展開です。消費者は、コアビジネスよりもアクセスしやすい新たな入り口を通じて、ブランドの世界に入ることができます。フレグランス、アイウェア、時計、革製品のほか、レストランやホテル、家具、さらにはテーマパークまで、その対象は多岐にわたります。
ブランド・ストレッチングはどこまでできるか?
本文献によれば、そのストレッチングがブランドの認知された能力の一部を形成しているか、あるいはその領域での能力を放棄しているならば、それは正当です。高級革製品ブランドはブランドを新鮮に保つためにファッションへ進出しています。一方、ファッションブランドが高級革製品に進出しても、その分野の作り手としては認められにくいのが現状です。
ストレッチングを構成する4つのステップ
本文献によれば、ブランドがその世界観や排他性を維持しながら領域を拡大するためには、以下の4つのステップを順を追って検証することが提唱されています。
ステップ1:長期ビジョンに基づく戦略的診断
拡張は売上獲得自体を目的とせず長期的なビジョンに基づいて狙いを明確にし、既存のブランド資産をどう活かし、認知向上や顧客獲得などブランド本体へ何を還元できるかを慎重に見極めながら進めます。
ステップ2:参入の正当性の検証
新領域への進出が、顧客から見て納得感のあるものかを深く掘り下げます。ブランドが培ってきた歴史や素材へのこだわり、背後にある文化やライフスタイルといった根源的な強みが、新しいカテゴリへの進出を裏付けているかを調査します。
ステップ3:アイデンティティと一貫性の維持
新領域での展開は単なる表層的な拡大を避けて本来の美学やステータスとの調和を図り、新製品・サービスがブランドの本質に適合しているか、創造的な差別化が可能か、そして新たな販売チャネルがプレミアムな立ち位置を損なわないかを厳密に検証します。
ステップ4:リスク分析と綿密な実行
最終段階ではリスク分析を通じてブランド資本の無駄遣いを警戒し、製造・流通・発信の品質管理の低下によるビジネスモデル崩壊を防ぎながら慎重に実行することが不可欠です。
まとめ
日本におけるラグジュアリー市場は、急速な円安に伴うインバウンド需要の爆発的増加や国内富裕層の消費に支えられて急拡大したのち、相次ぐ価格改定や為替の調整局面を受けて、より本質的な価値が問われる成熟期へと移行しています。こうした変化の中、ブランドが単なる値上げや安易なロゴの切り売り(表層的なストレッチング)を行うと、質の高い体験や一貫性を厳格に評価する日本の消費者からの信頼を失いかねません。本文献が説くように、ホテルやレストランなどの体験型ビジネスへ拡張する際も、自社の歴史や世界観に根ざした正当性と一貫性を保ち、長期的なブランド資本を毀損しない戦略的コントロールを徹底することが重要です。
参考文献:The Luxury Strategy: Break the Rules of Marketing to Build Luxury Brands (2nd Edition) by Jean-Noël Kapferer and Vincent Bastien
SEYMOUR INSTITUTE 株式会社
https://www.seymour-inst.com
世界最高峰と評価されるスイス・ホスピタリティ・マネジメントを基盤に、企業の戦略的資産を見つけ出し、プレミアム顧客に共鳴する、高付加価値の設計とラグジュアリーマネジメントを専門とする。