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1時間かけて切ったリンゴ、最終は握力で。

    先日、ご近所さんからリンゴを大量にいただいた。

    1箱に15〜20個……いや、もっとあったかもしれない。

    さすがに我が家だけでは食べきれそうになかったので、妻の職場と僕の職場にもお裾分け。

    それでも、リンゴが3個ほど残った。

    さて、どうしたものか。

    そんなとき、ふと思った。

    「リンゴ好きだったよな」

    1歳半になって大怪獣となりつつある我が息子。

    以前、リンゴをひと欠片剥いてあげたところ、喜んで食べていた。

    これはいい。

    せっかくたくさんあるのだから、息子にも食べてもらおう。

    そう思った僕は、残ったリンゴのうち1個を、食べやすいように細かく切ることにした。

    ……ここから、僕の苦難が始まる。

    1時間かけて切ったリンゴ


    リンゴを小さく切る。

    ただそれだけのことなのだが、1歳半の子どもが食べることを考えると、そう簡単でもない。

    大きすぎず、小さすぎず。

    食べやすいように、せっせと包丁を動かす。

    気づけば、作業時間は約1時間。

    ようやく完成した。

    これで、息子も喜んで食べてくれるだろう。

    実際、何日かに分けて、リンゴ1個分をきれいに食べてくれた。

    よかった。

    頑張って切った甲斐があった。

    そして僕は思った。

    「やっぱり、リンゴ好きなんだな」

    ならば、もう1個も細かく切ってあげよう。

    そうして、再び1時間コースの作業に取りかかる。

    昨日まで食べていたのに、今日は食べない。


    完成したリンゴを、息子に献上する。

    すると。

    ……食べない。

    あれ?

    昨日まであんなに喜んで食べていたじゃないか。

    リンゴだよ?

    君の大好きなリンゴだよ?

    でも、息子は食べない。

    なるほど。

    冷たいのが嫌なのかもしれない。

    温めてみた。

    食べない。

    じゃあ、逆に冷やしてみよう。

    食べない。

    容器が気に入らないのかもしれない。

    変えてみた。

    食べない。

    ……なぜだ。

    昨日までの君はどこへ行った。

    子育てをしていると、ときどきこういうことがある。

    昨日まで喜んで食べていたものを、今日は突然食べなくなる。

    理由は分からない。

    こちらとしては、何が悪かったのか考える。

    温度か?

    食感か?

    気分か?

    それとも、単純に今日は食べたくないのか。

    考えても答えは出ない。

    そして、こちらの努力だけが積み上がっていく。

    1時間かけて切ったリンゴとともに。

    そうだ、搾ろう。


    さて、どうしたものか。

    細かく切ったリンゴは、まだ残っている。

    捨てるのももったいない。

    何か別の方法はないだろうか。

    そこで、ふと思った。

    「……飲むなら、いけるんじゃないか?」

    リンゴを食べるのは嫌でも、ジュースなら飲むかもしれない。

    そう考えた僕は、フードプロセッサーを取り出した。

    リンゴを投入。

    スイッチオン。

    ウィィィィン。

    リンゴをぐちゃぐちゃにする。

    そして、使わなくなったガーゼを用意した。

    砕いたリンゴをガーゼで包み、ボウルの上でひたすら握る。(衛生面に注意を払った上で消毒殺菌し、ビニール手袋を付けてます)

    ぎゅうううううううううう。

    ……出る。

    果汁が出る。

    さらに握る。

    ぎゅうううううううううう。

    まだ出る。

    さらに、ぎゅうううううううううう。

    僕の握力が、今ここで試されている。

    平均以上の握力を持つ僕。

    まさか人生で、自分の握力をリンゴのために使い切る日が来るとは思わなかった。

    そして、格闘することしばし。

    完成した。

    林檎2個から、果汁約300mL。

    計量してみると、なんと約300mL。

    林檎2個から、300mLの果汁を搾り出すことに成功した。

    すごい。

    いや、何がすごいのか、厳密なところは分からない。

    リンゴの重さも測っていないので、搾汁率も分からない。

    でも、300mLだ。

    ガーゼの中に残った搾りかすも、かなりパサパサになるまで搾った。

    念のため茶こしでこしてみたが、目立った果肉は残らなかった。

    市販のリンゴジュースよりずっと濁ってはいたものの、液体自体はサラサラしている。

    家庭内で、謎の果汁抽出実験が成功した瞬間だった。

    ……ちなみに。

    完成した果汁は、息子が飲んだ。

    僕は味見していない。

    いや、味見する前に、息子が全部飲んだのである。

    正確には、120mLずつ、2日間に分けて。

    父親が握力を駆使して搾り出した果汁の味を、父親本人は知らない。

    そんなことがあるだろうか。

    いや、あるのだ。

    我が家では。

    子育てとは、予定どおりにいかないものである。


    今回の出来事を振り返ってみる。

    ご近所さんからリンゴをいただいた。

    息子が喜んで食べた。

    食べやすいように1時間かけて切った。

    次の日には食べなくなった。

    温めてもダメ。

    冷やしてもダメ。

    容器を変えてもダメ。

    最終的に、フードプロセッサーとガーゼを使って果汁を搾り出した。

    ……どうしてこうなった。

    最初からジュースを作る予定だったわけではない。

    なんなら、握力を発揮する予定もなかった。

    ただ、息子にリンゴを食べてほしかっただけなのだ。

    でも、子育てって、そういうものなのかもしれない。

    こちらが一生懸命考えて準備しても、子どもは思いどおりには動いてくれない。

    昨日の正解が、今日も正解とは限らない。

    そのたびに、こちらは考え、試し、時には途方に暮れる。

    そして、なぜかリンゴを搾ることになる。

    ……いや、最後のは我が家だけかもしれない。

    ちなみに、幼児の果汁は飲みすぎないよう量に気をつけたいところ。普段は果物そのものを食べることを基本にしつつ、今回のような試行錯誤も、無理のない範囲で楽しんでいきたい。

    それにしても。

    次にリンゴをいただいたとき、僕はどうするのだろう。

    また1時間かけて細かく切るのか。

    それとも、最初からフードプロセッサーを出すのか。

    あるいは、握力を温存するために別の方法を考えるのか。

    ……その答えは、神のみぞ知る。いや、息子のみぞ知る。かな?

    子育ては、今日も予測不能である。

    そして僕の握力は、今日も平和に温存されている。

     
     
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