
しろのゆめ - 信じていた嘘|掌編小説
綺更ちゃんの家は、みんな頭がおかしいらしい。
クリスマスにサンタが来ることを本気で信じている。私と同い年の綺更ちゃんとその弟が騙されているのは、まだ仕方ないのかもしれない。いや、やっぱり小学三年生にもなってサンタを信じている綺更ちゃんはおかしい気がする。
何より、おばさんとおじさんがサンタを信じているのがだいぶやばい。綺更ちゃんがあまりにもサンタはいると言い張るから、大人が冷静に真実を伝えたほうがいいと私は思った。日曜日、綺更ちゃんの家に遊びに行ったときに私はおじさんとおばさんに訊いた。
「サンタなんて本当はいないこと、分かってますよね?」
おじさんとおばさんは、顔を見合わせたあとに笑顔で答えた。
「サンタさんは、ちゃんといるよ」
やっべーわ、この家族。
綺更ちゃんは、好きなアニメも苦手な科目も同じで分かりあえる友達だった。なのに、まさか親とまとめてこんなにもバカだったなんて。
「サンタさんは、手紙を書いておけば、絶対に綺更が欲しいものを持ってきてくれるの」
「手紙、おじさんとおばさんも見るでしょ」
「見ないよ! サンタさんに渡してくれるだけだよ」
いや、それ勝手に見てるじゃん。普通、そこ気づくよね?
私と綺更ちゃんは、この件で何度も口論した。しかし、だんだん面倒になってきた私が「あー、はいはい」と折れることにした。
「うちにはサンタ来ないけど、綺更ちゃんとこにはサンタ来る。それでいいよね?」
「でも、」
「もういいじゃん。良かったね、サンタに欲しいものもらえて」
綺更ちゃんは、私に憐れむような目をした。私は眉を寄せて、その目を見返す。
何? 何でこっちがそんな目をされなきゃいけないの?
「サンタさん、いい子にしてたら来るよ……」
その綺更ちゃんの言葉に、私は目を開いた。一気に自分の目が険悪になったのが分かった。
「は? 私が悪い子だっていうの?」
「………、だって」
「ははっ……いい加減にしてよ、サンタなんていない。あれは全部、親が嘘ついてるんだよ」
「そんなこと言うから、サンタさん来ないだけじゃん!」
「うるさいなあっ。もういい、私たち合わないから絶交しよ。二度と話しかけないで」
私と綺更ちゃんは、これをきっかけに本当に絶縁した。というか、仲直りする前に私が転勤族の親と引っ越すことになった。挨拶もせず、文通のための住所も交換せず、完全に音信不通になった。
毎年十二月は、クリスマスムードがただよいはじめるたびにいらいらしたものだ。中学生、高校生──大学生になる頃、やっと彼氏の存在でクリスマスは楽しいものになった。
就職したあと、緩やかに交際が続いた男の人とのあいだに赤ちゃんができて、私は二十七歳の春に結婚した。夏に生まれた息子の初めてのクリスマスが近づく頃、うたたねをしていた育休中の私は、十年ぶりくらいに綺更ちゃんとその家族のことを夢に見た。
薄目を開けて、隣でちゃんと息子がすやすやと昼寝をしているのを確かめる。
結婚して、私は自分の家族と疎遠になった。サンタがいるなんて夢は見せない親だった。幼い私にサンタのからくりを教えて、「面倒なことは憶えなくていいから、さっさとこれで好きなものを買え」とおもちゃ屋にだけ連れていって小遣いをよこす、そんな親だった。
分かるけど。その効率の良さは分かるけど。なんか嫌だなって、自分が親になったことで初めて感じる。だから、家族とは疎遠にもなったのだと思う。
確かに私は、夢を見る綺更ちゃんにひどいことを言う悪い子だった。そして、真っ赤な嘘をついたおじさんとおばさんは、綺更ちゃんの真っ白な夢を守るサンタクロースだったのだ。
あの頃、綺更ちゃんたちは頭がおかしいと思った。でも、優しい夢も温かい心もなかったのは、親が親として壊れていたのは、私のほうだった。
昼下がり、晩秋の弱い陽射しが映っている天井を見つめる。息子が目を覚ましたのか、かたわらでもぞっと動く。
信じてみたかったなあ、と私はぽつりと思った。
FIN
お題をお借りしました。
ありがとうございます。